2012/12/22

dead leaves


得体の知れない時空間 空中に浮いているような手足
理性と本能の間で交感 深い混沌の中を漂流して戻ってくる
へたりとよろめいて曝け出す欠陥
俺の足首にはネジを締めることは出来ない
何気なく平気なふりをしようと体が強張る
感情にタコがあって切り取られたみたいに胸が詰まる

ああ 正体を飲み込んでも 100回以上踏みつぶしても
過ぎ去ることなくずっと巻き戻されて
電話するな 俺は出ない
霧は消え去っても もう月は覆われた
鏡の中の俺は怪物みたいで頭が割れそう
真実が虚構になった 俺はやっぱり嘘をつく
本音を塗りたくる 悲しみが広がらないよう
現実の理論に惑わされるな
渦中への道を迷った俺の胸は空っぽな感覚
泥に埋もれたこの石は真珠なんだ
一体誰が言ったの そんなに悲しむなよ
生まれ変わる為に今死ぬんだ

知ることができない場所 触ることも出来ない場所に
置いて行かれた俺の魂
風が強く吹いて俺を墜落させる
そして大地の上で踏みつけられた
微かに見えてなくなった色
ひどく痩せた体に あまりにも華やかだった青春の俺を
懐かしく思って消していくんだ
dead leaves


苦しくて どんどんひどくなっていく
敵が多いからじゃない 俺に味方が居ないから
傷つきたくなくて一人になった
反対から見れば 本当に騒がしい世界
埃っぽい日差しを浴びた後には雨が降る
青かった葉は紅く変わって
自然の変化に平気じゃいられなくって
寝付けなくって 感情にも時差調節が必要

お願いだ ひとりにしないでくれ
俺を残して皆落ちていったじゃない 分からない
激しい風に抵抗してもどうしようもない
最後だと諦めて 冷たい空気を飲む
ああ バイバイ俺の友 俺の家と俺の魂
よかった 残りの皆が無事で
これが最後だ
そして俺は落ちていく 終わりだ


知ることができない場所 触ることも出来ない場所に
置いて行かれた俺の魂
風が強く吹いて俺を墜落させる
そして大地の上で踏みつけられた
微かに見えてなくなった色
ひどく痩せた体に あまりにも華やかだった青春の俺を
懐かしく思って消していくんだ
dead leaves






wake me up

girl もうちょっとゆっくり床に寝転がって映画でもみて
連絡をとってなくても気軽に呼び出せる人にメールでも送って
胸がその片隅がぎゅっと締め付ける
目を閉じる
夜も徹夜で ただ眠くって
暗い顔なりに明るく見せて
部屋で明かりをつけても 今日に限って弱い照明
どうして何かを始める前に
お前の長い髪みたいに物事はいつもこじれて
決まり悪い嗚咽は俺には似合わなくって
ただ笑ってる 俺はクールなO型の男
くだらない考えはやめて 気持ちを抑えて諦めようとしても
毎晩想像の中 君と出会う
けど嬉しくない
めくっていくページ 悲劇に近づく小説

I fell to you and I'm right here
Could you (hold me ×3)
Could you (love me ×3)
Is anybody who's gonna wake me up
Who's gonna wake me up
Is anybody who's gonna wake me up
Who's gonna wake me up

他人には堂々と曝け出せない 自慢することなんてないそんな男
でも俺たちの出会いを一日でも二日でも大切にする方法を知ってる男だった
振り返ってみれば無知でしょうがない
感情よりも自分を優先しながら
永遠じゃないってことを分かっていながら
別れた後もただ君という女を追って
毎日夜が更けていく 夜明けが終わるころまで
男らしくなんかなくて 涙がこぼれる
無理して飲み過ぎて 道で寝て
服を着たままシャワーを浴びて 壁を殴ってみた
夢じゃない夢の中で 彷徨う俺を誰か助けてくれ
君が居ない人生は無駄な時間だ
目を開けてからが長い悪夢の始まりだ

I fell to you and I'm right here
Could you (hold me ×3)
Could you (love me ×3)
Is anybody who's gonna wake me up
Who's gonna wake me up
Is anybody who's gonna wake me up
Who's gonna wake me up




2012/11/30

dead leaves


音が聴こえない。誰も居ない訳ではないのに、呼吸の音さえ聴こえない。体温を感じているのに音だけが聴こえない。

「どうしたの」

肺を汚されるように立ちこめる煙は何故今になって気になるのだろう。自分がそう望んだんじゃないか。そうしたいと思ってたんじゃないか。ここでこうしていることも。掌を白く汚すことも。総て。

一度めちゃくちゃになってしまってから、時折思い浮かべる。どうしてこんなことになってしまったのか。厳しく突き落とされるのにも慣れた筈なのに。あの時に気がついた現実は今も変わらない。苦しいのは敵が多いからじゃなく、俺に味方が居なかったから。一人の方が楽だった。

「近くにいるのに見えない時もあるんだ」

一人で居たほうが楽だったのに、いつの間にかこんな場所にいて、味方と言うには非力な人間はいつも隣に居る。急速に冷えた体を近づけて、少しでも感覚を尖らせる。また、何も聴こえなくなる。

「聴こえない」
「何が?」
「何も」

すると、急に相手が馬乗りになって俺に何か伝えようとする。聴こえない、見えないと投げ出してしまった俺に。

「ちゃんと見て、僕はここに居る。誰もお前を見てなくたって、僕がお前を見ている」

泣いていた。それまで溢れだす様子すらなかったのに。歪んだ世界の中にあいつが居て、あいつの声が聴こえていた。


2012/11/11

夢を見た。こんな夢。



こんな夢。

「私は正義の結社に所属し、その中に入り込んだ悪と仲間の多くの犠牲を払いながら戦い、最後にはその仲間の亡骸を海岸際に近い砂浜に埋めたが、波の所為で上にかけられた砂が流され、形容することも困難な死体が顕になっているのを俯瞰映像で『この惨劇は忘れません』とナレーションが入っていた。」
だるみ 11月9日

夢診断なるものをしたことはないし、これからもすることはないけれど、陰鬱な夢を見た時に読みたくなる本がある。

安部公房の『笑う月』


安部公房が見た夢も、また安部公房だった。


2012/11/05

ショックメンタリーについて



今日、11/04(日)に渋谷アップリンクに釣崎清隆さんの映画『ウェイストランド』を観てきました。釣崎さんはメキシコやコロンビアなどの南米やシリアなどの中東で写真や映像を撮っている方で、今回見た『ウェイストランド』の他に過去作品『ジャンクフィルム』『死化粧いう師オロスコ』という過激な描写を特徴とするドキュメンタリー、ショックメンタリーの日本の第一人者です。と私は思っています。他に作っている人もいないですし。

今日は私の都合で『ウェイストランド』しか観られなかったのですが正直な感想としては気分が悪くなりました。個人的に5:30起きで18:00まで働いた疲れた体で観に行ったことにも理由はありますが、ナレーションが一切ないBGMの爆音ノイズでやられました。退屈というより窮屈です。釣崎さん自身、「現状をありのまま見せる」という信条のもとに作品を作られていて、それから外れた内容でない一方で投げやりな「ドヤ感」も感じました。メキシコ、日本、シリアが第三極という風に思われるのならそれは何故かというところが全て観客に任されていて、時間だけ映画の体をとっている雰囲気もあります。

釣崎監督のお話を聞いていて思ったのですが、やりたいこととやっていることの間が埋まらず、だから映画と写真を撮り続けている、そんな感じです。AVビデオの監督からキャリアをスタートして、その世界とスナッフ映画というかジャンク映画が繋がっているということ、そして今やそれらの映画が「ヤラセ」と一括りにされてしまうことで映画界から排除されてきたという話は興味深く、そもそもどれだけドキュメンタリーを装っても結局は全てフィクションな映画というものの中でそういう理由でショックメンタリーなどが人の目に触れる機会が減ってしまうことは恐ろしいことです。

『死化粧師オロスコ』は「オロスコ自身が死んだ時には死化粧をされなかった」という逸話を聞いて見たくて仕方がないのに、ずっと見る機会がないので、今後も続くらしいこのアップリンクでの上映を楽しみにしています。そしていつか日本国内でショックメンタリーというジャンルが見直され、日本のショックメンタリー作品が作られることを楽しみにしています。


ショックメンタリーといえば...『世界残酷物語』


『死化粧師オロスコ』


『ジャンクフィルム』

2012/10/18

Tumblr


このブログを読んでいただいている方は何故だかやっている人か多そうですね。
かくいう私も5つ程サイトを持っています。

まずは、BIGBANG専用のNothing Better
※BIGBANG's pics only

二つ目はモデルさんとかアイドルが多いNothing Gold Can Stay
※men's pics only

取り敢えず貼りたいものを貼る、SPACE TRIP

欲しいものを放り込む、wanna

最後にたまに逃げ込む、GOMI
※エログロ注意


ここ最近は、上位に上げたサイトですが最後のが一番古くて一番お気に入り。
粗悪で痛いのが好きだからです。

Last.fmとかInstagramとかいろいろやってるんですが
一番使いこなしてるのはTumblrですね。
Fancyも始めたのに買わないから結局うーんな感じ。
皆さん、どんなものを使ってるんですかね?
ブログと言えばアメブロだったのに今はDECOLOGになっているという事実。
前略プロフィールとかもうないんでしょうか。
待ち受けはアニメキャラクターにそれっぽい友情のポエム、
aiko、浜崎あゆみの歌の歌詞を手書きで書いた画像とか。
もうそんなものも知らない人が多いんでしょうか。
というか、どんどんアメリカナイズされていっているなと感じる22時。




2012/10/03

Twitter

Twitter:だるみ

お久しぶりです。このブログ、あまりコメントはありませんが意外と韓国のモデルさんが好きな人が見てくれているようですね。嬉しい。

写真を貼ってくれるブログはあっても情報がないのを憂いている人が少なくないのですね。わかります。私もなんとかしてスヒョクやヨングァン、ジェヒョンなどの情報を集めていますがなかなか大変だったりします。でも楽しいんです~

そんなこんなでモデルさんのことばかりを呟いている訳ではありませんがTwitterアカウントを晒してみました。どうぞよろしく。

2012/09/22

父親のこと


前もって言っておきたいのだけれど、父親は存命である。
今から私がここに書くことは無口な父親に代わって母親が話していことと、私の周りの人から聞いたこと、そして私がこうあってほしいという願望が含まれた内容だと思ってほしい。

私の父親は群馬県の山の中で育った。
生まれつき心臓が弱くて、外で駆け回って遊ぶことが出来なかった彼は勉強に没頭した。本もよく読んでいたという。そんな彼も、高校は工業高校を選んだのだけれど、決してそれを望んだのではないと思う。ただ、時代が時代なだけに、男子は工業系、女子は商業系に入ることが当たり前だったから。大学進学なんて誰も考えていなかった。そうして、卒業した彼は地元の工場に就職し、ベルトコンベアーに流れる部品のチェックをひたすらしていた。毎日毎日、流れが変化する訳もないそれをずっと眺めていた。そこで、母親と出会ったらしい。馴れ初めなんて知らないし、聞きたくもないけれど、職場恋愛しかなかったんだということは想像に難くない。そうでもしていなくてはやってられないくらいの何かがあの田舎にはあると思う。

けれど、いつしか父親はフランス料理屋で働くことを決め、工場を辞めていた。なにがどうなってこうなったか聞いたことはないけれど、その街に唯一あったそのフランス料理店が彼の何かをつかんだのだろう。以前から料理をするのが好きだったのかもしれない。とにかく、彼はそこで働き始めた。そのうちに母親もそこでウェイトレスとして働くことになった。ここら辺が今の夫婦関係を見ていると想像もつかないところである。でも、そうなった。そうして数年そこで働きながら、勉強を重ね、彼はフランスに行くことを決めた。おそらく、最初の転職も、この料理修業のことも、母にすら相談していなかったのだろうと思っている。何故なら、私だったらそうするからだ。そんなこんなで彼は行ってしまった。

典型的アジア人顔、日本人というより寧ろタイ人である彼はフランスでどんな生活をしていたのか。私は知らない。絶対に聞かない。聞いてしまったら恥ずかしくてどうしようもない。とにかく、そこでパンをカフェオレに浸しながら食べる癖がついたのだと思う。私も子供のころはパンはそうして食べるものだと思っていた。今でもアジア人男性が受けないと聞くヨーロッパで、彼がモテた筈もなく背も低いので尚更大変だったのではないか。でも、そんなことを気にする人ではないとも思う。まぁ、母親がいたしそこで羽を伸ばされても困るのだけれど。そうして(私にとって)暗黒のフランス生活に突如母親が加わった。どうも会いたかったらしい。愛おしい。とは言っても帰る直前だったようで母にとってはただの旅行だった。

帰国して、街の商店街外れの地下室のようなところにお店を構えた。私の記憶もそこから始まる。かなり狭い店内で、厨房も殆ど歩くスペースしかないようなところに私はフットマットを敷いて、踏み台を机代わりに絵を描いたり、働く父親と母親を見ていた。そのうちに、その地下室から抜け出して今は東京スカイツリーの横を通る路線の続く駅近くに店を作った。店が一階、住居スペースが二階、そんな一戸建て。今もそこに居る。

父親が生まれた時から心臓が悪いというのは前述した通りだが、手術をして今は問題ない。ただその時の麻酔の所為で耳がよく聞こえなくなった。父親の心臓は一度停止させられて、再び動き出した。その痕は肉が抉れたようになっていて、なぞると指先から痛みが伝わってくるんじゃないかと思う。そして、一度トイレの中で倒れたこともある。脳梗塞だった。薬を飲むだけの治療だったけれど、ブロッコリーと納豆が食べられなくなる生活は可哀想だった。もうひとつ、大腸ガンにもなった。よくもまぁこんなにいろいろ襲いかかってくるものだと思うのだけれど、今も生きているから別にいい。死ななければいい。

正直、私は父親が羨ましい。
きっと何一つ後悔しないように生きている。自分の人生を本当に自分のものにしている。それが羨ましい。こうして、人生のことを考える年齢になって思うのは行動力とある程度の予定を受け入れることが後悔から遠ざかる方法なのだと気がついた。それでも私はまだ何もできていない。

私は父親が母親と結婚して10年目で生まれた子供である。そして彼の子供は私一人だ。大事にされているという自覚がある。さて、60年生きてきた彼の人生の中で私の20年間はどんな意味があることなのだろう。私は彼に何をしたのだろう。問うてみても何も思い浮かばないのだからどうしようもない。


2012/09/15

岩井俊二、本当にずるい


今日は、シネマライズで『スワロウテイル』を観てきました。



本当に、岩井俊二、ずるい

「何がどう」とか「誰がどう」とかそういうことは言えない。
共有したくないくらいの感想は私だけのもの。
それと、この映画を観たことだけが残ればそれでいいと思った。
私とあの子の記憶の中で特別な日になればいい。
それだけで嬉しい。





2012/09/14

双子のはなし



僕は場所があれば何処でもしますよ。各地を点々としているのも楽しいですし、一所でだらだらと生活に似たものを送るのも嫌いじゃあありません。此処へ来たのも何となくで、いつ迄居るかなんて分かりません。たまに、追い出されてしまうこともあります。僕のやっていることが少し奇異だから。魔女と言われたこともありました。何でこんなことを続けるか。ゴウでしょうか。ああ、業です。こうしていることが普通であり、他のことが出来ないとも言いますけど。可笑しいですか?

じゃあ、いつも僕に話を聴きに来るあなたに、今日は僕からとっておきの話をしましょう。嘘だというならそれ迄。僕の子供の頃の話です。





僕は、双子でした。そうして、兄と僕は物心ついた頃には見世物小屋でこうして芸を披露して居ました。そうすること以外何も知らなかったので不思議に思うこともありません。ただ、生きることに懸命でした。


兄と僕はある人に育てられていましたが、彼が僕達にとって本当はどんな存在なのかは分かりません。父親かもしれないし、兄かもしれない。尋ねようとしなかったけれど、僕らは彼が愛する対象なのだということだけは知っていました。だから、それだけで良かったのかもしれません。


彼は兄と僕を「アル」と呼びました。そうです、二人とも「アル」でした。客に見せる芸も二人の違いがなければない程奇妙に感じるものでしたから、その呼び方に困ったことはありません。たまに、彼が僕らを呼ぶ時は不便ではないのかということを聞いて来る人がいますが、その答えは「いいえ」です。彼はいつも兄だけを見ていました。だから、彼が「アル」と呼ぶ時、それは兄のことであり、僕はただの付属物に過ぎない。それが僕の幼い頃の日常です。


彼は勿論兄を可愛がりました。やっていることは同じなのに、褒められるのは兄だけ。その笑顔を向けられるのも、抱きしめられるのも、総て僕ではありません。そうして、毎晩彼の部屋に呼ばれるのも兄でした。


僕は彼の部屋に入ったことがありません。覗いただけで背中を打たれ、痕が残ります。多分、僕は彼に必要とされたことがなかったのです。彼が待つ部屋に兄が入っていくと、いつもその部屋の前には香の薫りが漂ってきます。それは脳味噌まで溶かされてしまいそうな、そんな毒々しい薫りでした。それを胸いっぱいに吸い込んだらきっと窒息してしまうに違いありません。きっとずぶずぶと溺れてしまいます。それでも兄はその中に入って行きました。

暫くすると引っ切り無しに聞こえてくる音はきっと兄の声だったのでしょう。それは甘く、時に刺々しく僕の耳に突き刺さり、僕の身体もずくりと重くさせます。嗜めるようなそれでいて優しい彼の声は、どんなに求めても僕には与えられることのないものでした。正直に言います。僕は兄が羨ましかった。彼に愛される兄がいっそ殺してしまいたい程羨ましかったんです。


そうしてある日、兄は見せつける様に彼に与えられたネックレスを身につけて部屋から出てきました。きらきらと光るそれが僕をどれだけ苦しめたか、想像に難くないでしょう。いつも兄は僕に何も言いません。ただ優越を含んだ微笑みを浮かべて僕を見詰めるだけです。その頃から彼が居ては僕は一生劣等感から抜け出せないのだと思うようになりました。


それは、空が真っ暗な夜でした。夜中にふと起きてみると、隣に居る筈の兄が居ません。不思議に思って小屋の中にある粗末な作りの舞台まで行ってみると、そこには箱の中に体を曲げ入れる芸に取り組む兄が居ました。その瞬間、兄は彼に褒められる為、部屋に呼ばれる為に練習をしているのかという考えが僕の頭に巡り、その浅ましさに兄を軽蔑しました。もはや羨ましさなどはなく、兄の様になるのだけは嫌だという思いに駆られました。「ああ、嫌だ」と引き返そうとすると、ばたんと兄が居る箱の蓋が下り、鍵の部分が落ちた状態になって、内側からでは箱が開かないようにないっているのです。このままではいけないと箱に駆け寄ると中で呻く兄も僕に気がついたらしく、「はやく開けろ!愚図!」という声が聞こえます。そうです、僕は愚図でした。上手くすれば兄も僕も同時に彼に可愛がってもらえた筈なのに、そうならなかったのは僕が愚図だから。そして今、箱に鍵をかけて小屋に火をつけたのも僕が愚図だからです。本当に僕はどうしようもない人間でした。


暫くそうして僕が小屋の中で燃え盛る火を見詰めていると、そこに彼が飛び込んで来ました。僕を一瞥した彼は箱の中にいるのか兄だと確信し、羽織って居たコートで必死に火を消そうとしています。自分が中にいたら彼はどうしただろうと考えると笑いがこみ上げます。大声で笑う僕の声が響いていました。


火は消されました。想像よりも小屋自体は燃えることはなく、兄の入った箱だけが焦げ爛れて真っ黒です。そんなもの開かなければいいものを、彼はゆっくりと箱に手をのばしました。それ程までに彼が兄を慕う気持ちは僕にはわかりません。生きてもいないものはもはやただの物です。肉の焦げた臭い、それは牛や豚とは違う、確かに人間の焼けた臭いが部屋に広がりました。臭くて臭くて仕方がないのに、彼はその物体を抱くと獣の様に泣いていました。


僕は、ただ愛されたかっただけなのに。兄が居なくなれば僕が「アル」として愛される筈だったのに、総ては可笑しくなってしまった。再び燃やされた見世物小屋の中には兄だった物と彼だけが居ました。最後の最後まで僕は拒絶され、一緒に灰になることも許されなかった。小屋があった空き地に燃える火を僕は憎みました。苦しみだけを置き去りにしたあの火を只管に。





というのが僕の子供の頃の話です。あまり人には言わないんですけど、言うと大体笑われるか、馬鹿にするなと罵られます。若しくは「火が嫌いだ」と言ったじゃないかと、火を飲む芸を見せる僕を非難する人も居ます。そんなことを言われてもどうすることも出来ないのに、皆ちゃんと信じてくれてるんですね。


この話が真実なのか?さあ、どうでしょう。本当、かもしれませんよ。





2012/09/07

手首の夢




あの頃、私は天使だった。
何もなくただ広がる野の上で只管人間を探し、罰を与え、殺していた。純粋な正義心、この世の浄化が私の仕事。人間を狩ることに何の喜びも感じなければ、悲しさも感じない。けれど空しい。どれだけ殺しても報われない。世界はますます血で汚れていく。私はこんなにも精魂果たして仕事をしているというのに、人間たちは一向に変わらない。同じ人間であった私も自分自身を恥ず程に。


天使はもともと人間だ。子供は天使と人間の間の存在である。それが分かれるのは大体物心ついた頃。「明らかに自らは天使である」という思いに駆られ、次第に羽が生えてくる。白く、まだ小ぶりな羽でも、天使と人を分かつには十分だ。人間に対する圧倒的優位。人間に対する存在否定も容易に行われる。何故なら私は天使だから。それ以外に理由など要らなかった。


そうして、正義の鎌を振るうようになってからも私は迷いに苦しむことはなかった。両親は卑しくも人間だったので、すぐに殺すことを決めた。けれど、それは簡単なことではない。鞭で打ち、両手足を切り落としてから殺す。彼らはのたうち回ったが、自分たちの子供が天使なのだから仕方がない。最期は水に沈めた。手足がないからずぶずぶと落ちていく彼らを見て少しだけ泣いた。「天使でよかった」と彼らに感謝した。両親が受けるような仕打ちを受けないのも、私が天使であるからだ。それが嬉しくて少しだけ泣いた。


それから私は野に出でた。狩っても狩っても減らない人間を懸命に殺す。拷問には時間がかかるので、日に五人と殺せないが仕方ない。けれどその不甲斐なさには死にたくなった。


そんなある日、私は人間を二人捕まえた。私と同じくらいの年の少女たち。彼女らは私が何を言っても、何度鞭で打ってもその手は離さなかった。そのうちに一方が死んだ。それでも手は繋がったまま。生き残った方はと言えば、命乞いをすることもなく、切られた相手の手首を握っている。そんとき私は気がついた。彼女は天使になることが出来た人間だと。


「なんで天使にならなかったの?」

私には分からない。そこまで人間に拘る理由。

「なんとなく」

彼女が短く答えた。理由になっていない。

「人間なんて何が良い?無知で汚くて悪でしかない」
「そんなことないよ」


そう言って手首を撫でる彼女を見てはっとする。もしかしたら、私は何も言えない。ただ、頭の中には様々なことがめぐっている。彼女が正義と引き換えにした愚かさと何か。私の知らない何か。これまでもそしてこれからも、触れることはないそれは私の長い一生で求めても手に入れることが出来ないものがあるのだと感じさせた。暫くして、彼女も死んだ。だから私は何かについて考えるのを止めた。

2012/08/23

紙とペンの

今、こうしてペンを握ってあなたを待っています。ここに書かれているものだけがあなただから。それだけだから。以前の姿ではもう会えないのです。結構気に入っていたのに。これもまた生まれ変わりと言うのでしょうか。あなたとは、何なのでしょうか。体があって、意識があって、動き出すものがそれなのでしょうか。そうだとしたら、ここに居るあなたは誰なのでしょう。

今、私はあなたを感じています。あなたはここに居ます。それ。誰も否定することは出来ない。確かにここに居ました。だから大丈夫。もう平気です。また会いに来ます。紙とペンを用意してあなたを待っています。

2012/08/12

痣が、そう思った。
青、赤、紫、黄、茶、そのどれも目を惹くには充分で、ただその楽しみ方を考えあぐねていた。

ひとつは自らにそれを求めること。
ふたつめは誰かのそれを求めること。
みっつめはその写しを求めること。
よっつめはそれを与えること。
いつつめはそれを嬲ること。
むっつめはそれを嬲られること。

痣が、と夢にまで思うのに、自分がどれを選べば良いかわからない。今わかるのは視界に捉えただけで、自分を抑えることが出来なくなる程にそれを愛好しているということだけ。

ある人は転んだ証しとして、ある人はぶつけた証として、ある人は虐げられた証として、ある人は自戒として、何度も痛みを経験する。痛みを記憶し、触れることで再生する。そうして消えるその瞬間まで、じくじくと残る痣を、あれ程までに美しいものを、何故人は疎ましく思うのだろう。
そんなことをしても、和らぐ筈は無いのに。

美しく彩り、痛みを再生する。
痣が、こんなにも愛おしい。

帰省、その読み方

何時の間にか帰省していた私は、毎日同じ場所に通いながら生きています。この田舎で学校以外に唯一若者の集まるその場所は、自分自身が責任ある人間なのだと実感させてくれます。それがどうしようもなく辛くって、それと同じだけ本を読むことにしました。本当は映画も観たいのだけれど、観たい映画は見つからない。図書館がとても居心地良いです。

こっちに来て少しして、バイト先から連絡があったのだけれど電話口の人が「きしょう、きしょう」って言うからなんだろうって。きしょう、きしょう、きしょう。別にいいかなって其の侭にして父親の作るご飯を食べました。

僕は今日も元気です。

2012/07/04

Zoo & Aquarium


子供のころよく行った市営の遊園地と動物園






動物園の中で一番好きな場所は「水族館」と呼ばれる場所でした






剥製と卵の殻と熱帯魚と小さい鰐しかいない「水族館」



近くにあるいわゆる観光地の寂れたおもちゃ屋さん
それでも子供はまだいた





2012/06/20

割と日記(友人のこと)


6月のベイビーが多いと言いますが、私は友人の誕生日が重なっているということでそれを実感していたりする。
祝われたりするのは苦手だけれど嬉しいものなので、極力誕生日を覚えていたいと思うのだけれどそれが上手くいかない。
そして誕生月が分かったところで大体21日生まれと決めつけている。
理由はおそらく母親と中学の時に仲が良かった友人の誕生日が21日だから。
と、誕生日が分かったところで誕生日おめでとうメールや、FB、Twitterでメッセージを送ることは殆どない。
あの「しとけばいい」精神がとても好きになれないから。
だから祝う時はちゃんと会って私がその人に出来る一番をしようと思っているのだが、まぁつまりは自己満足である。
結局何が言いたかったかというと、「友人は時間ではない」ということ。
中学の友人の中で一人だけ一年に一度、なんの約束もしないのだけれど会う人がいる。
高校の友人は半年に一度「ご飯を食べよう」と誘ってくる人がいる。
大学の友人は週に一度昼食や夕食と共にする人がいる。
そんな感じで連絡を取り合って、それ以外は完全に別の生活を送っていくのが好ましいと思う。
私はそれで満足だし、困ったことはない。
そして私はその友人たちを信頼している。
何かあった時に私もすぐに駆け付けたいし、駆けつけてくれる。
だから私は一人でいることが怖くない。
ともかく生まれてきてくれてありがとう。



何故かふと思い出したので貼っておく。
この曲も『Last Days』の中で印象的。


VENUS IN FURS from Last Days

DO OR DIE




DO OR DIE-3Oh!3

一瞬壊れてしまったのかなと思ったけど最近三角好きな私はこの変化が嬉しい。

2012/05/30

夢に対する考察①





「最近、夢に出てこなくなったんです」
「何がですか?」
「怪物です」
「怪物?」
「はい」
「悪魔などではなく怪物ですか?」
「はい。形は人間なんです。とても綺麗な人で」
「では何故それが怪物と分かったのですか?」
「その怪物は言葉を話すんです。そしてとても頭がいい。僕の中の暗いところを抉るんです、言葉で。絶対に触れてはこない。やめてくれと言ってもずっと語りかけてくる。僕のどこが可笑しくて、どこが狂っているかを。そして言うんです。“早く目を覚ませ”って」
「それは起きろということですか?」
「僕も何度も怪物に会っていたから、それが夢だと理解するようになっていて“僕だって目を覚ましたい”って言ったら“そうじゃない。気づけ”って」
「何をでしょう?」
「分かりません。その言葉の続きを聞く前に彼はいなくなってしまいました」
「何かがあったのですか?」
「...何も思い当たりません。ただ僕は見捨てられたのだと思いました」
「怪物に?」
「はい、そうです。彼は僕に何かを伝えようとしていました。それなのに僕は気がつけなかった」
「それは良いことだったのでは?」
「だったら何で...」
「何で?」
「僕はこんなにも彼に会いたいと思って、わざわざ精神科医を訪ねているのでしょうか?」
「怪物にまた会いたい?」
「はい。彼はとても美しくて、完璧で、彼の毒のある言葉総てが真実でした。毎晩、彼の言葉を聞いて安心していたのです。心から満たされていました」
「しかし、そもそも夢というのは浅い眠りの時に見るものです。決して充実などではない」
「分かっています。頭では分かっているんです。でも会いたい」
「では、本当のことを言っていただけませんか?」
「本当のこと?」
「そうです。いつまでもそうやって真実を隠したままでは私は答えを導き出すことはできません」
「嘘なのでしょうか?僕は夢で怪物に会っていないのでしょうか?」
「思い出して下さい。貴方の真実を」
「でも、僕は、彼を知っているんです。彼はいつで僕を馬鹿にして、冷たい言葉を浴びせかけた」
「それはきっと、ずっと貴方の近くにいて今はいない大切な」
「大切なんかじゃない。ずっと嫌いだった、本当に嫌いだった」
「嫌いだと憎むことは想うことに似ています」
「彼が夢に出てきた所為で、総てを食べられてしまった。僕の幸せな夢を、総て」
「...」
「でも、幸せでなくても、彼に会えるならどうでもよかった。目を覚ませと迫られても怖くはなかった。それが彼から想われている証拠のような気がしていたから」
「しかし、それは、」
「僕の夢です。結局全部が僕の夢の中。本当は想われてもいなければ、何の証拠にもならない」
「そこまで理解している貴方なら理由も分かる筈だ。夢に怪物が現れなくなった理由」
「夢に彼を蘇らせても、彼はいつも言うんです。“早く目を覚ませ。これはお前に都合のいい幻だ”って。僕はその時だけでも彼を自分のものにしたかった。なのに、正直な彼はそれすら許さなかった」
「だから、貴方自身で消したんですね」
「はい、そうです。僕には夢すら上手くいかない」
「ならば、貴方はどうしたいんです?」
「会いたい。彼に今すぐ会いたい。会って夢の中の怪物の話をして、僕の浅はかさを笑ってほしい」
「それが答えです」
「はい」
「今日もきっと夢を観るでしょう。もしかしたら彼が現れるかもしれない。でもそれは怪物などではなくその人自身です」
「悪夢ですね。会えるのに触れられない」
「それは貴方次第です。その時に一人でいるのか、隣に誰かがいるのか」
「会いたいです」
「はい」




2012/05/25

cut in piece



深い眠気に体を任せストンと沈んでいったのは空が白み始めた頃。上体を開いて上を見つめた時に目に入ったのは白い空に浮かぶ月だった。それから暫くして身体の表面が冷えているのに気づいて目を覚ますと誰かの手が身体を這っている。

「ん、どうしたの?」
「起こしていましましたよね、すいません」
「別にいいけど、寝ないと明日持たないよ」
「なんか眠れなくて」

昨晩は久しく触れていなかったということもあって少し無理をさせてしまったかと思う程に求めたのに、やはり若いんだななんて思っては笑ってしまう。

「なんですか?」
「なんでもないよ。で、何してるの?」

そう聞いたのはその人の手にボールペンが握られ、熱心に脚の付け根辺りをその手が触れていたから。気にならない筈がなかった。覚醒し始めた頭でその目で状況を確認すると自らの左右の手首には何やら黒く模様が描かれている。

「切り取り線を描いているんです」
「切り取り線?」

そう聞き返すのと同時にもう一度自分の左手首に目をやれば黒い模様だと思っていたものは黒い点線とCUT HEREの文字だった。右手を見ても同じこと。ぐるりと点線が一周している。それが両手首、腕の付け根、腰、そして今は脚の付け根ということらしい。

「首にも描いてありますよ。全然気がつかないから」
「何で?」
「理由?」
「じゃあ動機」
「......あなたを自分のものにするにはどうしたらいいか考えたんです。剥製にしたり、ホルマリンに漬けたり色々考えたんですけど、やっぱり大きかったら運べないなって。だからまず切らなきゃって」
「どうせなら綺麗に保存してよ」
「そう思ったんですけど、誰かに見つかったら手に入らないかもしれないから」
「そう」
「はい」
「でも、まだ俺は生きてたいよ」
「そうですよね」

その人はそう肯定しながらも点線を打つのをやめない。次第にくすぐったくなってきて脚元の頭を、その髪を掴み上に引き上げた。柔く掴んでいてもこれが自分のものでないとこんなふうに粗暴には扱えない。それだけで分かってくれればいいのに。

「もう充分でしょ?」
「でも、でも」
「でも?」
「証拠がない」
「そうだね」
「だから」
「いいよ」
「うん」

いくら言葉を合わせても、伝わらないから総てを肯定してあげたいのだけれど、それでもその人に触れる媒介であるこの身体は大切で。その我儘を読み取る人は証拠を与えられないことが手に入らない証拠だと信じている。そうだけれど、そうじゃないのに。こんな時に出て来るのはやっぱり拙い言葉だけ。

「お風呂入ろうか」
「お風呂?」
「温まればゆっくり眠れるよ」
「...はい」
「そしたらさ、ちゃんとこの切り取り線消してね」
「......はい」

再び抱きしめるとその人はすっぽりの腕の中に収まって彼の胸に顔を埋める。想像よりも小さいその存在を強く感じ、彼はそのまま引き寄せたその人の額にキスを落とした。


rest in peace briefly

2012/04/13

too late


会いたい
と言うから、会いたかった。
キスしたい
と言うから、キスしたかった。
セックスしたい
と言うから、セックスしたかった。
死にたい
と言うから、死にたかった。
総て君の所為だと思っていたのに、君がいなくなっても会いたいし、キスしたいし、セックスしたいし、あの言葉を交わした頃よりも死にたい。その絶望のおかげでやっと言葉を知って脳内が鮮明になった。今、あの頃よりも僕は君を愛してる。

2012/04/03

「遺書」



突然のお手紙、そしてこんな内容で申し訳ございません。
貴方とは昨日話したばかりなのに気分が悪くなられたら今すぐ破り捨てていただいて構いません。
私は此処へ来てすぐ、庭で仕事をする彼方を見て、膳を上げ下げする女中から名前を聞いて彼方を知っていました。
昨日が初めてなんて嘘をついて申し訳ございません。



私自身、此処へ来た時から自害しようということは心に決めておりました。
あの方と結婚して、南京についていき、強盗に襲われ、あの方を失ってもう私に大切なものなどございませんでしたから。
だからすぐにでも命を絶とうと思っていたのに皆様の温かい手が私を引き止め、そしてまた皆様の冷たい疑いが再び私を決意させたのです。
そうしてじいっと待っていました。
出来るだけ誰とも話さないようにしていたのも、この世に未練を残さない為です。
それでも優しくしていただいた皆様には本当に感謝しています。



決意してから二週間後、私の待っていたものはやってまいりました。
それは嬉しくもあり、悲しい証明。
月のものは私が強盗の子を孕んでいないという喜びであり、私はあの方の子をこの世に残せなかったという悲しみです。
穢れてはいないということ、何一つ私は機能出来なかったことが証明されました。
決意は成就し、私は終わろうと思います。



最後に貴方が背中の傷に触れてくれたことで、私はあの忌々しい男達を忘れ本当に浄化されていくようでした。
何故なら、彼方は本当に白く美しいから。
神の遣い子のように清らかな彼方の手に触れられたから。
本当に有難う、そうしてさようなら。






――――――――
皆川博子さんの短篇集「蝶」の「遺し文」の遺書のつもり。
私の勝手な解釈。

2012/03/27

SF




2XXX年。医療技術の発展により病死は殆どなくなり、死因は自殺と他殺の二つになった世界では「生きてれば良いことがある」という言葉が死語になっていた。そして、そんな世界になることを信じて、自らを凍結し再び生きることを望み未来に託した人たちも少なくなかった。


「もしもし、兄さん?面白いものを見つけたんです。うちに来てください。」
声の主は電話を切ると自身の大きな屋敷の地下室に向かう。薄暗く、じめじめしたそこは決して居心地の良い場所ではない。そこは今まで軽く100年は誰も足を踏み入れることなく閉ざされていたが、この館の若き主であるKはあまりにも厳重に錠をかけられたその扉が、とてつもない秘密を隠しているようでついに人を呼んで開けさせたのであった。その当時としては完璧な錠も今となっては子供のいたずら程度のもので、大した時間を要しなかった。ひとりになって、足を踏み入れた地下室にあったものは想像していた者とは全く違っていた。


「あれだけしっかりとした設備だったから、もう少し高価なものが入っていると思ったんですけどね。」
Kは家を訪ねてきた幼馴染のSにそう言うと、ちょっと待っていてくださいと言って大広間を離れる。用意されたカルチェラタンの紅茶がふんわりと香る。
「兄さん、みて下さい。」
その声に振り向いたSは、車いすに乗せられ目の前に現れた麗人に目を奪われる。それはまるでラベンダーのような強い香りを放つ人だった。
「その人は?」
「ドラキュラ伯爵です。地下室で眠っていたんですよ。ご丁寧にネームプレートまでありました。Hというそうです。」
ごくたまにこういった冷凍凍結され仮死状態の人が発見されることがある。Sも聞いてはいたが、実際に見たことはなく今回が初めてだ。だいたい未来に託そうとする人間なんて年寄りばかりだと思っていたのに、そこにいたのはSやKよりすこし年上に見える若者だった。ネームプレートと共にあった資料には仮死状態から醒める時の為にカルテと簡単なその人のプロフィールが書かれている。二十代前半で結婚して子供が出来た彼は、何故か急に自ら凍結されることを決め眠った。つまり、この人物はこの屋敷の先代当主であり、Kの先祖ということになる。
「面白いですよね。これがずっと昔のおじいちゃんだなんて。」
「そうだな。」
ふふっと微笑みながら車いすの彼の髪を撫でるKは何故か嬉しそうだ。
「それでお前、この人どうするの?仮死から醒ますこともできるだろ。」
「そうですね、出来ればこのままで居て欲しいです。」
「それってどういうこと?」
「このまま僕の人形で居て欲しいです。」
そう言って益々微笑んだKを見てSは何も言えなかった。Kの家族は彼が5歳の時にこの屋敷に押し込んできた強盗によって殺された。運良く姉とかくれんぼをしていたKだけが助かり、突然当主となったのは今から18年ほど前。昔は家族のいない寂しさを訴える度にSが慰めていた。結局は慰めでしかないそれは、Kにとって何になったのだろうと今でも考える。今ではすっかり主らしく振る舞う様になったが、中身はいつまでも5歳で止まったまま、誰かとのつながりを懸命に探しているようだった。
「僕の血の繋がった家族なんです、もうどこにも行ってほしくない。」
Hという名の男は目を閉じたまま動かない。総てを停止させてただ光を待っている。


地下室に入った時Kが見つけたものは透明な棺桶だった。古臭いデザインのそれは、確かに中にいる人物を守る盾として機能しており、ガラスケースの埃を袖で拭うとそこには白く乳白色の皮膚、整った顔つき、痩身の男。女性でないのが残念だと思いながらネームプレートを指でなぞっていると、下に封筒が落ちていることに気づいた。拾い上げ封を開ける。

“何一つ不自由のない人生を生きて、ただ一つ知ってしまった。”

そう紙に書かれた文字は滲んでいた。そうしてKは眠り続ける彼と同じ年になるのを待ってみようと思った。


2012/03/25

指輪


俺に殆ど何も望むことがなかった彼女が唯一欲しがっていた指輪を見つけた。飾りがなくて、シンプルで、裏に言葉が掘ってある指輪。ある店で見たことがあると、いつか一緒に行こうと言っていたけれど今まで行けずにいた。街の外れに有る古くて小さな店。出来れば彼女と来たかったのだけれど、そう思いながらひとつ包んでもらった。サイズは間違ってないだろか、包み紙が少しちゃっちくてこれじゃもしかして怒るかななんて考えてる瞬間もやっぱり愛してるのだと実感する。店を出ると冬の冷たい空気が脇を抜けた。ポケットに入れた指輪を握って確認する。渡す彼女はもう居ない。



2012/03/22

空想酔狂虚構


怠い日常。
無意識に感じる誰かとの差。
卑屈になっていくのは顕著で、笑えるほど堕ちていった。
だからといって譲ることの出来ないこの心臓だけを持て余して、今日もまた同類だと言い張る人間と共に居る。
傷の舐め合いなんて言えばまだ美しい体裁を保っているけれど、真には相手に無関心で、自らを守る為の足掻きの最中だなんて言えば、誰が共感してくれるのか。
所詮は完璧な駄目人間なのだから。




お前さ、死んだら何したい?
死んだら?好きな人に好きって言いたい。
そんなの今でもできるだろ。
死んだら言いたいんだよ。
あっそ。
うん。
何で?
告白したら多分死んじゃうから。
そっか。
うん。
じゃあ先に相手が死んだら?
死体に向かって言う。
あっそ。
うん。
じゃあ、わかった。
うん。
待ってるから。
うん。




彼が終わりたいと願っているのは知っていた。
だから後押し。
鶴の一声。
私達はとっくの昔に気づかされた陳腐な感情を、表に出すことが出来なくて、それでも言いたくて、言ってもらいたくて。
ハタから見ればくだらない極まりない筈なのに、諦められないからタチが悪い。
だからと彼が自らの頸に手を当てれば、私はついそれを制止してしまう。



こんなんじゃ
いつまでたっても
何も変わらないじゃないか!
俺が死ぬこともない!
お前が告白することもない!
生殺しだ!
俺は、俺は、俺は、









知ってるよ、だから何も言えないんだよ。
もうやめよう。
死のうとするのも、変わろうともがくのも。
どうせいつかは死んで塵に変わるだから。




.

2012/03/20

YOKOHAMA


ご飯もタピオカもおいしかったし、中国雑貨&本屋&カフェのお店が素敵だった。
それにしても、オリエンタル旅館にはグッときた。













2012/03/10

Oculophilia


薄く、青白く、柔らかい。
それが何処だか知ってる?
そう、瞼。
瞼の皮膚。
押すと眼球の感触を直に感じることができる。
でも、やっぱりだめ。
眼球は舌で味わうの。
三白眼の目頭から薄くて、青白くて、柔らかい瞼をこじ開ける。
舌の先が侵入すればなんのことはない。
まずは上側をなぞる。
恐怖の涙が長い睫毛を濡らしているから、少しだけ塩気が増している。
自らの上を通って行くような舌先が視界に入るから震えているのね。
身体全体を侵食されていく感覚でしょう?
でも、これからが大切なの。
目尻を越えて、下側を行く。
今度はなぞるのではなくて、抉るように差し入れる。
眼球は飛び出したりなんかしない。
ただ物凄い圧迫感があって、状況を想像しては吐き気がする筈。
瞼を私の手で固定してしまっているから少しだけ乾いてしまうの。
送ってあげるわ、私の唾液を。
潤いが満ちる。
汚いなんて言わないで。
潰されるよりまだマシでしょう?
あら、これは涙かしら。
それとも私の唾液?
あぁ、どちらもね、きっと。
感じる、熱を。
感じてる?
もう一度ぐるっと一周。
動かないで、お願いだから。
でもお願いだから、泣いて。
涙を舐めたいのよ。
彼方が流す唯一綺麗な体液を身体に取り込みたいの。
泣いてよ。
じゃないと鬱血する太腿の間のものが更に酷くなる。
泣いてよ、痛いからじゃなく、懇願して泣いてよ。
やめてくださいって、言いながら、彼方の一番汚い体液を身体に取り込まされた私の為に、泣いてよ。


wanna kiss baby

自分の家とは違うゆったりとした空気の流れる部屋。それが愛しい人の住まう場所なら尚更心地よく感じてしまう。優しいムスクの香り、あの人の体温のような室温、柔らかい音楽。外がまだ凍えるような風を吹かせているのを知って居るから此処に居たいのではない。

「キスして下さい。」

こうして会って、他愛無い話をして、くすぐったい程の愛の言葉を聞いていられるのも一瞬だから、貴方のキスで私とこの夜をとめてほしい。初めてこの手に入れた優しい恋を、貴方の注ぐ愛を、全部掬い取るように。

急な言葉に躊躇したのも束の間、貴方は踏み出して、髪を撫で、顎をゆるく掴んでキスを落とす。見えない恋心や愛情は不確かだけど、こうしてそれを確かめ合う瞬間が何よりも愛おしい。

不安になるのはお互い様なのに、会えないことがもっと助長する。貴方は誰にでも優しいひとだから私だってそんなこと解ってるけど、その手に触れるのも、背中に爪痕を残すのも、綺麗な肌を白で汚すのも私だけであって欲しい。でも、本当は嫌だけど、そんな私が貴方の障害になるなら手離すこともできる。それが私の愛の感情。だから、言ってよ。さよならは貴方が言ってよ。

「何を考えてるの?」

「なんでもないです、くだらないことですよ。」

黙っていても見透かされる私の心。身体は此処にあるのにふんわり浮かぶ意識。私は蝶で夏の空を漂う。でもあの時はただ浮かんでいるだけで、自分になんの価値もなかった。あの人が見つけてくれるまでは、名付けて愛してくれるまでは。あの大きな手に捕らえられて、自由がなくなったんじゃない。一層生きることができるようになった。そうして夏のような貴方が本当の私のそばに居る。

「守ってくれますか?」

貴方は何も尋ねない。ただ強く私を抱きしめた。私の目からは涙が零れた。蝶の命は短いんです。だから放さないで。この恋をゆっくり編んで、抱き合って編んで、戸惑いだって恋の一部だから、不安も私には大切で、見詰めあいながら触れる熱でこの恋を編んでいく。

欲しいものなどなにもない。貴方以外なにも要らない。ごめんなさい、貴方を困らせて。でも眉毛を下げて苦笑いするのは、全部を否定したいということじゃないって、知ってる。

私と何処までも行けると信じていますか?私達は最後の時まで笑顔で居られるのですか?私は不安なんです。それだけが不安なんです。こうやってこの優しい恋に溺れて、苦しいままなんて嫌だから。貴方にそんな顔させたくないから、放したら楽なのかな、なんて。考えただけでも悲しい。

「いやだ、」

「ん?」

「消えないで、下さい。」

また、そっと零れた涙が長い指に掬われる。温かい体温と、柔らかい言葉が染みていく。そばに居て、そっとね、消えないで。

キスではなにも分からないなんて嘘。伝わる想いが溢れ出す。好きだから、愛しているから。貴方が私を守ってくれる。そうしてまた意識が浮かぶ。私は蝶で夏の空を漂っている。すると風が強く吹き抜けて、私を攫おうとした。でも、夏の貴方が私を見つけてくれたから、ほらこうやってそばに居る。

「愛してます。」

そういうと貴方はゆっくり微笑んだ。

BGM:Chara/Kiss

2012/03/07

Lonely Lovely Family

Patrick, Alex and Luna are family.

******************************

3:00am

Patrick heard a sound that someone coming into our house.
He noticed that sound because he has been waiting someone.
"Good night" a man's low voice said.
"Yeah" a girl's voice said.
So he woke up and went to the room in front of his room.
There is Alex who is Patrick's brother in the room.
Alex is someone that he wanted to see even if he endure sleepiness.
Patrick opened a door slowly and invaded Alex's room.
Alex was about to sleep.

"Hey, where were you going with Luna?"
"Outside"

As always Alex replied curtly but Patrick didn't care that thing.

"What were you doing with Luna?"

Then Alex smile to sneer Patrick.

"You should ask Luna the truth when you sleep with her. She might say because she is good girl not like me."

He is nasty.
I haven't felt gentleness from he.
But we can't move back.
Patrick thought.

Patrick hugged Alex and said while burying the tip of nose in the neck.

"This smell of the rose doesn't match you."
"The smell of soap is strong used in such a hotel."
" You are honesty like her."

If you say such a stupid word, I must notice the truth, Patrick thought.
Alex is ticklish, he caught a chin of Patrick and kissed.
But it's not tender like kiss.
So Patrick twisted his body and show strange face.

"You taste like strawberry. Are you a child?"
"Not me, she is a little girl."
"Then, how about us?"
"What do you wanna be?"

In that way the drowsiness of the early morning disappeared calmly.

2012/03/05

誠実な浮気

兄さん、兄さん、
【一人称A】ね、兄さんが怖いんだ
恐くて近寄りたくない
ねぇ兄さん、怖いんだよ
その冷たい視線とか、誰にも興味を持たない雰囲気とか、人に厳しく自分に甘い性格とか、全部恐い
世の中には怖い=嫌いという人もいるよね
もそうなのかな
声をかけようとするといつも心臓が壊れるんじゃないかってくらい震えるし、目を見ることも出来ない
やっぱり嫌いなのかな
ねぇ兄さん、兄さんはどうなの
【一人称A】のこと嫌いなの
口も聞きたくない?
顔も合わせたくない?
同じ空気を吸いたくない?
【一人称A】は、そうじゃない
【一人称A】は兄さんと話がしたいし、毎日会いたいし、同じ世界に生きてて良かったって思うよ
ねぇ兄さん、【一人称A】は兄さんが嫌いなのかな

「で、なに?」
「兄さん、愛してる」

先程から【加害者A】は【加害者B】に馬乗りになり、角度を何度も変えながら掻き回すようなキスを続ける
【加害者B】はそれに応えない
ただ余りにも近くに居過ぎる男の香水の匂いが染み付いた【加害者A】を見詰める
お前は誰だ
匂いも失くし、言葉も失くし、入れ物だけの人形
考えは、感情は、それは本物?

「今日、【被害者】は?」
「さっき会って来た」

開いた脚の付け根からは、直前に吐き出されたであろう液体が流れ出る
白いシーツと白い脚と白い液体
白が汚いと【加害者B】は思った

汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い

脳内ゲシュタルト崩壊
汚い世界と美しい自分
なんて素敵な構図
だから、
開いた円に突き立てた
そのまま一心不乱に揺さぶった
それは自分の為、自分と汚い世界の為
そこが少しでも浄化すれば良いと
白が綺麗な世界が訪れれば良いと
ただ願って止まない

「ナニイッテルノ?兄さんだって立派にキタナインダヨ」

【加害者A】が言ったのかもしれない
そうじゃないかもしれない
それでも【加害者B】は目の前で身を痙攣させる男を殴った
数回、体重をかけて
あゝ、愛おしい
こんな風に自分を汚して、そうでもしなくちゃ狂気が保てない自分達に
それでも何も通じ合えない自分達に
この世で見たこともないような最下級の愛を
こびり付いて離れない毒のような愛を
そして笑うことを諦めた自分達に
空虚な笑顔を
そうして、言う

「戻れよ、あいつのところに」
「......」
「あいつは気づいてる、それでも許してる」
「嫌だよ、嫌だ、戻らない、兄さんが」
「【一人称B】はお前なんか要らない」
「それでも」
「あいつにはお前が必要だよ」
「【一人称A】にもあいつは必要だよ」
「浮気は楽しかった?」
「全然」
「【一人称B】は楽しかった」
「でも嘘じゃない」
「だから、許すよ」
「きっとまた来る」
「そしたらまた、浮気しよっか」
「嫌だよ」

どちらが何を言っているのか途中で分からなくなるほど混乱した脳内の回線は繋ぎ合わせてもショートを続けた
ぱちぱち、ばちばち音を立てる
そして溶けてどろどろになって消える
だから終わった
今日が終わって総て終わった
そんな世界も結構綺麗かもしれないと思った


.

2012/02/28

私の世界が意味のないことと夢のないことで溢れていた頃



傷つけれられることもなく
非難されることもなく
ぬくぬくと生きていた。
こうして周りを意味で埋め尽くされた世界で
私はどうしたらいいか分からないし
私にとって最良のものが一つずつ落ちていく
感触が今もこの体から抜けない。
人付き合いってなんだろう。
総てが終わってまぁいいやと思えるほど
私は人を愛せていない。


かくいう時に思うこと



目出度くハタチを迎えることが出来ました。
楽しく祝っていただいた友人たちには感謝です。
またTwitterなどさまざまなメディアを通してお言葉をいただけたことは、こうしてブログやSNSをやっていなければ無かったことなので感慨深い。
ハタチ初めの話題は自らの私生活で正直こっぱずかしいことばかり話していましたが、特に隠したいことではないのでいいです。
そんなこんなでこの年の目標的なものを決めてみました。

①面倒くさがらない
始める前から面倒を理由に諦めたり、会える人に会わなかったりするのは勿体ない。
少しでも私に興味を持ってくれるのであれば、それに応えたい。
私簡単に人を受け入れたり、好きになったりは出来ないので必然的に世界は狭くなります。
それが仕方ないなら、好いてくれる人を好きになりたい。
それでいいのかなと思えるようになりました。

②「頑張る」と言わない
頑張ると言ってみたところで殆ど何も変わらない。
大事なのはその後の行動と、結果です。
とかいいつつハタチになって2時間ほどで結構使ったことを謝罪し、反省した後検討します。

③誰かに頼る
負けず嫌いも、大人びているのも、自立しているのも美徳と言えばそうなのかもしれないけど、結局はただの頑固。
「頼りたい」と口で言いながらもなにも変えられなかったのは今までのこと。
総てを投げ出したいくらい落ちている時は誰かに頼ります。
「お願い」と言える人になります。


完璧な人間など目指さない。
でも一緒に居て居心地のいい人間になりたい。
まとめればそれが今年の目標です。

2012/02/26

ぬるさ

僕らの関係は少しだけ湿った服みたいだった。
それに袖を通すと初めは嫌な感じなんだけど、そのうち自分の体温で温まって何も感じなくなる。
濡れているのは変わらないのに、感覚が奪われたみたいに何も感じることが出来なくなる。
それが僕らの関係だった。

「退屈だったんだ」

そんなこと知ってる。
今更言葉にして、音にするなんて一番滑稽だ。
やっと彼方を違和感なく受け入れられる様になったのに。
それを水の泡にしてしまう言葉。
僕を残していかないという僅かな希望は彼方の消失によって打ち砕かれた。
それなら僕にわからない様に、気づかない様に静寂以上に無音な終わりが良かった。

「ぼくだってそうだったのに」

退屈だったのに。
彼方だけが伝えることを許されるなんて。
ぬるくなったコーヒーはもう喉を通らない。
だからぬるくなった関係だってもう成立しない。

2012/02/25

宇宙の中の汚いこの惑星




苦しい

苦しい

苦しい





地球というこの汚い惑星に圧し込まれている上に、その地球の中の一つの国の一つの街の一つの建物の一つの部屋に閉じ込められ、他人の肺から排出された酸素と二酸化炭素とよくよく考えたらほぼ窒素である空気を又自分の身体の中に取り込み、それで息をしている、呼吸をしているという僕等は、死んでいるのか生きているのか解らないような眼で、広く白い板が黒で汚されていく様子を只々ぼうっと眺めて、たまに目の前で一生懸命に動く人間のその懸命さに笑い、嗚呼なんて人生はこんなにも滑稽なのだろう、こんなことをすることが命の意味なのか、そう考えれば生まれる命の軽さ、虚無さ、それならば誰かに捧げてしまってもいいでしょ、全体重をかけてその相手に委ねて、息をするかどうかでさえ任せて、それでも僕は「生きている」といえるかどうかはわからないけれど、いざ死を手にする場面に至れば、恐怖に震え、意味もなく涙が流れ、命に縋る、貴方に縋る、縋って縋ってその重さのせいで貴方が私を捨てたら、綺麗にこの身体と脳と心臓を諦めて、苦しいこの部屋、この建物、この街、この国、この地球から出ていける。




.

2012/02/23

避難訓練




私は百貨店で避難訓練の為に走っていた。
出口へ、多くの人が走っていた。
私がそこに居た理由、誰と居たかは分からない。
もしかしたら避難訓練をする為に居るのかもしれない。
だから私は出口に向かって大きなうねりの中で走っていた。
ふと横を見ると見知った顔がある。
たしか中学の同級生だと思う。
彼も私のことに気がついたようで数秒見詰め合った後口を開いた。

「何しているの?」

避難訓練とは答えなかった。
ただ買物とだけ伝える。

「そうなんだ。僕はさっき彼女と会ってて送ってきたら此処に。」

私もそうなんだと言った。
その間も避難訓練は続いていて二人は並走し続ける。

「これからどこに行くの?」

出口とは答えなかった。
特に決めていない旨を伝える。

「じゃあ、どこか行こうよ。」

その言葉で二人は駆けていた脚を止めた。
流れる人の波を無視して逆らって、逆方向に歩きだす。
何処に行くかは分からないので兎に角一度通った道を歩く。
卒業してから同窓の人間に一度も会ったことがない私に対して彼はまだ連絡を取り合う友達とたまに会ったりするということ、お互いの容姿が変わっていて別人のようだと言うことなど取り留めのないことを話した。
話は弾み、また以前のような友達に戻れると思った。
けれど、以前はどんな付き合いをしたか思い出せない。
彼の断片的な記憶。
明るくて、ひょうきんで、誰からも好かれる、数学の得意な男の子。
風の噂で彼の高校卒業の少し前に市議会議員であった父親が頸動脈を切って自殺したと聞いた男の子。
彼は元気だった。
こうして目の前で笑っている。

「僕君のこと好きだったよ。」

唐突に彼はそう言った。
人の波は出口に吸い込まれ、周りにはもう誰もいない。

「今も好きだよ。」

何を想ってそう言っているのか。
避難訓練に失敗したから後悔してそんなことを?

「ねぇ。」

私はやっと口を開く。

「その好きって、性的に好きってこと?」

彼は私の顔を見て微笑む。

「――――。」







ふと意識を覚ますと耳元で携帯バイブが唸り、画面には友人の名前が表示されている。
今日は18時待ち合わせという内容で電話を切って天井を見詰めると、再び目を瞑った。
夢だった。

Girl's Diary



姉さんはいつも急に突飛な質問をします。

「空はなんで青いの?」
「地震はなんで起きるの?」

私が答えられなければ宿題になりますがそれは決して苦ではなく、家族であれば何としても姉さんの役に立ちたいと思うのは当然なのです。
そして昨日も寝る前の勉強を終え、就寝準備をしていると姉さんからメールが届きました。

「部屋に来て、質問があるの。」

勿論すぐに向かいの姉さんの部屋へ行きました。
ベッドに頭まで潜った姉さんの枕元にたどり着くと尋ねます。

「質問はなんですか?」

その声に頭だけ出したその人が聞きます。

「ねぇ、私って可愛い?綺麗?」

姉さんはあまりに多くの男性に可愛いね綺麗だよと言われ、もしやこれは壮大な罠なのではないかと疑っているようでした。

「美しいに決まっています。世界で一番です。女の私が言うのだから信じて下さいな。」

そう言うとくぐもっていた表情が晴れ、笑顔が戻りました。
いつもの姉さんです。
私はそのことがとても嬉しかったし、幸せでした。
こんなに愛おしいと思うのも、彼女が家族だからでしょう。
そうして眠そうな姉さんを寝かしつけ部屋を出ました。
部屋を出るとき、彼女の首筋に赤い痕があり二番目の兄さんの香水の匂いがしたのは気のせいではない筈です。
きっと兄さんも家族だから姉さんのことが心配だったのでしょう。
私はそんな人達と家族で本当によかったと思いながら眠りにつきました。




2012/02/22

一般女子とオールして分かったこと


①私の「詳しくない、興味ない」と他の人の「知っている、詳しい」にあたる時がある。

基本的になんでも興味があるので、読んだり書いたり聴いたりしていてなんとなくの知識があるから、それが詳しいととられることがある。
でも逆に私が詳しいと豪語することは果てしなく深く、広いんだと思った。

②興味領域が広いから他人に合わせることが簡単にできるけど、他人が合わせてくれることを期待しないから拒絶されるのが恐くて自分の本当の興味を共有しようと思わない。

その人だけじゃなくて、一般に自分の興味以外のことを本気で興味がない態度で聞く人が世の中には多すぎる。全員にそうしろとは言わないから大事にしたい友達の趣味や興味に対してだけは寛大に理解してあげてもいいんじゃないか、と勝手に思っていたりする。


自分勝手だなとは思いますけど、ここではエゴイストで居させてください。

2012/02/19

きみが、ぼくだ


世界は常に輝いていて、曇りや闇など見当たらない。
そこに彼らはいた。
彼は海の中を縦横に飛び、彼女はそれを笑顔で見つめる。
普遍的な幸せの姿。
誰もが疑うことなく、永遠を望むような幸せ。
海と空の地平が溶け、正体が曖昧になる様子が心地よい。
手を取り合い、その身体に触れ、確かめなければ、自分が形あるものかさえ分からない。
降り注ぐ日の光に融かされる。
二人が繋がる。
一つのモノになる。
やはり正体が曖昧になる。
君が僕で、僕が君で。
空が君で、海が僕だから、空が海で、君が僕なんだ。
途端に視界が白くなる。
白に犯され、総てが消えていく。
そこには何もない。
"何も"さえない。
白に犯された世界。
そこには世界があった。
白の他に世界があった。
世界は何か?
世界は白で、君と僕。
全く社会など関係ない。
世界の白と、君と僕。
優しい彼が微笑んだから、彼女も思わず目を細めた。
総てが白だったから、何もわからなかったけど、確かに彼女は笑っていた。







朝。
気づけば二人はベットの上にいた。
お互いが裸で、シーツが乱れていたことにも気づいていた。
でも必死に分からないふりをする。
無知で純粋であるかの様に嘯いて、総てを無いことにしてしまえば誰も悲しむことはないと信じていたから。
自分の心が軋んだ音も聞こえないふりをした。
「おはよう、兄さん」
顔ばかり格好良くて、中身は子供の様に真っさらなお前だから俺は。
「おはよ、」
幸せの夢を心にしまいこむことにした。




2012/02/10

zakki




Twitterを含めSNSのアカウントやブログの類をいくつも持っている私は「絞りたいな」と思うものの「まあいいや」で大体済ませてしまうところが良くないことなのではないかと思います。一応どれも必要なつもり。さて、最近考えていることをつらつらと書いてみます。


①何故同性愛者には女々しい男がいるのか/雄雄しい女がいるのか?
勿論完全に自らの性で同性を愛する人達もいる。小説や漫画で描かれているのは大体そう言う人であるのも分かる。でも、矢張り女性になりたい訳ではないのに女々しい人や男性になりたい訳ではないのに雄雄しい人がいるのか。そもそもそういう人の動画を見たということから始まるのですが、もうその人が気持ち悪くて気持ち悪くてどうしようもなかった。同性愛者嫌悪ではないと思っている。批判されてもそこには根拠もなにもないのでどうすることも出来ないが、多分違う。私がその動画や女子高の友達を見て思ったのは「同性愛と言いつつ、異性を演じているように見えることがとてつもない違和感」ということ。そんな簡単に男性女性どちらか!と割り切れないのが人間なのかもしれないけど、それで好きになってくれるのは同性を好きな人じゃなくてノンケなのでは?と思わずにはいられない。個人的に女体化でテンションが下がるのはそこのとこが曖昧になるから。


②上司と部下の社内恋愛って気持ち悪い。
正直これは単なる主観だし、周りにそう言う人がいなければそんなことも思わなかったけど二組もいると相当だわ。「今日彼の家に泊まってそのまま来たんだ~」とかあまぞわすぎて吐く。見ててどうしても苦しいのは何故か。まぁ、甘い関係の終わりと同時に窮屈な関係が待ってることが目に見えるからかな。それにしてもあまぞわい。





どっかにこんな王子様いないかな。





純粋な二次創作


※映画『46億年の恋』の二次創作小説です。









“被害者の背景は?”





トタンの壁を這う朝顔の蔦。
しかしそこには花はついてない。
そこにあるのは落下する萎びた花弁のような家、商店、そして人間だった。
そんなおおよそ今の世の中で考えられる最低の場所で香月は育った。
そんな場所で育っても、まともに育った人間もいるのだからお前もまっとうに生きろとは言い難いまでに総てがみすぼらしく貧しい。
その土地にまるで隠れるようにひっそり暮らす人間達は生気なんてものは持っていない。
持つことは許されまじことなのだ。




“あぁ、覚えてるよ。
あの子は可笑しいよ。
というより親が何も言わねえんだ。
何度捕まえて親に言っても駄目、警察に突き出しても無駄。
そんな子供だったよ。
毎回ジャムパンを店先から盗んでくんだ。
そう、ジャムパンばっかり。
他のもんには目もくれなかったんだよなぁ。”



“あいつはまじで最低な男だった。
急に○○○―――。
で×××が△△△の○○になって。
中二の時です。”




“殺してやりたかったですよ、そりゃ。
この辺であいつのことを知ってる奴はみんなそう思ってる筈です。
―――え、殺されたんですか?”






誰にも気を許さない子供だった。
周りの人からも、親でさえそう思っていた。
だけどそれは違う。
心を許せるような人間が一人も、たったの一人もいなかったのだ。
食事を与えられないことをつらいと思ったことがなかったのは、それが彼にとって当たり前過ぎたから。
握りしめたいつも同じ味のジャムパンだけが頼りだった。
旨いとか、不味いとかの問題ではない。
それを食べることが彼の必然なのだ。
さびれた街の砂利道。
誰もいない公園。
ただ下へと飲み込む河川敷だけが彼のもので、同時に彼の檻だったのかもしれない。
今となっては何故この両親や、この性犯罪者自身が此処まで彼を追い込んだのかは誰も知らないし、知ることさえできなくなった。
けれど暴かれないことが唯一香月の人生の救いなのだろう。



良い思い出などなくても彼は生まれ育った街を離れることはなく、幼少期の面影を残さないまでに変容した街に留まった。
今では都会のベッドタウンと呼ばれるそこには沢山の人間がいて、幸せな家庭を築いている。
その様子が彼にはどう映っていたのだろう。
微笑み合う親子をどんな目で見詰めたのだろう。
誰かが誰かの為に仕事をし、社会を動かす。
そんなシステムが完璧に整えられてしまった彼の世界は彼にとって心地良いものであった筈がない。
なによりそれが総ての始まりだった。






唯一とってある窓から有吉が外を見ていると香月が声をかける。

「見に行くか?」






ぐるぐると上まで続く螺旋階段。
そこには上に対する期待と、下への絶望が入り混じる。
彼らはもうその渦に飲み込まれ始めていたのかもしれない。
渦に巻きこまれながら上へ上へと足を進める。
先を行く香月にただついていく有吉には漠然と今と違う世界へ行くような、そんな高揚感があった。
大きく見えるが細いその背中を只管見詰める。



「どっちに行きたい?天国か、宇宙か」
「天国、なんてもんがあるなら宇宙」



開けたそこにあったのは、以前見たあのピラミッドだった。
けれど二人は格段驚くこともなく、こうやって話をし始めた。
何処までも広がる地平に自由を感じるのは傍観者の私達だけである。
そこにいる二人には目の前の人間と、その人間が生み出す言葉しか意味がない。




「なんで?」
「そっちの方が人少なそうだから」
「宇宙人いるかも」
「いねぇよ」
「じゃあ天国は信じてるの?」
「お前がどっちって言うから答えたんじゃねぇか」
「あると思う?死んだ後」
「しらねぇ」
「どう思う?」
「俺がどう思おうが、ありゃあるし、なきゃねぇ」
「なんで…なんで人が少ないのがいいの?」
「鬱陶しい」
「なら、なんでヤルの?」



そう微かな声で訊ねた有吉の声は上ずっていた。



「しねぇとイライラするから」
「僕じゃ駄目なのかな?そんだけのことなら。僕は君みたいになりたい」
「やめとけ」
「なんで?」
「こんなんなったら取り返しつかねぇぞ」
「なんで?」



「狂う」



それまで俯いていた顔をあげ香月を見上げれば、今までになく弱々しい表情の彼がいた。
どうして?
僕の言葉なんかにそんなに突き動かされているのか。
どうして?
僕のことを気にかけてくれるのか。
なら、なんで僕ではいけないのか。



「なんで時々僕を守ってくれるの?」



鮮やかに舞う様に人を殴る彼は、何かを必死に守るように、とは言いながら自分自身を守るように戦っていた。
それが彼の暴力の理由なのだと有吉は思っていた。


ただ見詰める彼の視線が柔らかい。
そのことが不思議で仕方がないまでに。




「お前はどっちに行きたい?お前が聞いたんだろ」
「宇宙かな」
「本当はどっちに行きたい?」
「天国かな」
「だからじゃねぇかな」
「何が?」
「狂わせたら悪いとか思っちまう」
「もう狂ってるよ、多分」



根拠もなくそう答えた。答えてみたものの、やはり理由が見つからない。
そのことに香月も気づいている。
だからそんな風に微笑んで笑いかけるんだ。




「俺はあっち(宇宙)に行くよ。お前は向こう(天国)に行けよ」



ほらまたそうやって。



「僕も一緒に行っちゃ駄目かな」
「どっちへ?」
「......」



どちらとも選べない人間にあるのはただ虚しい死のみだ。
どうせ均等に待ち受ける未来ならお前自身で選べよと伝える不器用な言葉が今もこんなにも僕の心に突き刺さってはじくじくと血を滴らせているのです。
ねぇ、貴方はそれを知っていますか?





幾度目の聴取室ではオイルライターの匂いと煙草の煙が充満し、その開閉音が規則的に響いている。



「お前がやったんじゃないってことはもう分かってる」
「僕がやりました。…だけど僕がやったんじゃないとすれば、虹が、三重の」
「何?」








雨。
強くなる程に人の心を曇らせる。
普段大人しいものもその瞬間に牙をむく。



「香月!所長がお呼びだ」
「いや、今日は」
「仕事はいい。早く行け」



僅かに怯えた様子の香月が連れて行かれる背中を目で追うことしか出来ない有吉は何も考えなかった。
考える必要などなかったのだから。
でもただ寂しい背中を見ていないではいられなかった。
そして雨が強くなる。
意味のない労働が始まり、続き、いつかの終わりを待つ。
そうしていると、また黒い影が同僚を攫い有吉は再びひとりになる。
彼には同僚の苦悩は分からないし、知りたくもない。
少し前と同じく、ただ寂しい背中を見詰めることしか出来ない。
思考を宇宙へと飛ばしていく。
広く深い宇宙には何故か穏やかさがあった。
誰からも与えられることのない安らぎがあった。



長かった雨は大地を潤す。
けれどそれは豊かに広がる大地の上での話で、コンクリートの続く此処では気休めにもならない。
ひとりで螺旋階段を上り、ピラミッドを奥から順々に見ていけば、そこには一つとして同じモノがないことを知る。
でもそれだけ。
目で分かることは人間にとってあまりにも少ない。
そこにある歴史や意味さえわからない。
そんな時ふと聞こえた足音は香月だった。



「なんの話だった?」
「亡霊の…」



香月に豪雨に記憶が思い返される。



「昨晩、妻がやって来てね、君のことを心配していた。妻は君にすまなかったと思っているんだ。自分が自殺してしまって、君が心を痛めてはいないだろうか、飛び降りるくらいなら君の元に行ってもうなんでもないと言ってあげればよかったと。それで、私の元に」


そう言いながら愛おしそうに我が妻を思い出す所長は幸せそうで、そしてそこには死んだという女が確かに寄り添っていた。


「代わりに伝えて欲しいそうだ。気に病むな、総て忘れて前向きに出直しなさいと」


恐ろしかった。
所長から伝わる狂気もそこに寄り添う女の意識も。
総てが恐ろしかった。
そして理解した。
俺は生きるべき人間ではないのだと。
気づくのが遅かったかもしれない。
でも気付いて良かったとさえ思った。
望まれない人間などいないと生きることに何の疑問も抱かなかったのはすべて自分の怠惰なのだ。
この感情を知ることを恐れて怠った。
俺は生きていてはいけない。
女を自殺させたことが始まりな筈がない。
これはいたって純粋な終わりなのだ。
最後に見た所長の笑顔は確かに呪いそのものだった。





「なんの話だった?」
「亡霊の…」



そう言って押し黙ってしまった香月を暫く見ていた有吉が何かに気づく。



「虹?ニ重、三重?」



激しい雨の後空に広がったのは約束の徴。
虹は我が身を亡ぼさないことを約束する証。
救われない運命にいようとも、天はいつでも彼を亡ぼさないと約束する。
その大きな愛で包みこもうとする。
でも香月にはその約束が重すぎて、その愛が大きすぎて苦しかった。
もう生に縋るのはやめようとすると与えられる約束など、愛など、自らにふさわしくないからこそ息ができなくなる程の絶望をもたらす。
香月は嗚咽を止められない。
そして再び子供のような浅はかさを露呈する。




「違う、のかな。僕は君みたいになりたいんじゃないのかな」



その幼さを見た有吉は香月に近付き、頬を撫で抱き寄せた。



「やめろ、やめろ...ぅぐっ…ひっく…やめろ!」



温かく抱きしめられた腕を振りほどくのはプライドの所為か、それとも他の何かの所為か。
叩きつけられた体が痛むことより、彼の何にもなれなかったという事実が有吉に刺さった。





これが事件の三日前、香月と有吉二人の最後の記憶である。

2012/01/26

宗教学


人間神化思想
三位一体思想における父が人間の創造を決定し、命じ、次にそれを受けた子が実行し、形作った。そして最後に聖霊がそれを養い、成長させた。人間は少しずつ成長し、完全なもの、つまり創られざるものに近くなっていく。その完全なもの、創られざるものとは神のことであり、そうして人間が神化していくという思想。

キリストは神性に関しても人性に関しても完全であり、真の神であると同時に真の人間で、霊魂と肉体から成っている。神の神性はこの世の初めに父から生まれ、人性は終わりの時代の我々の為に生まれ、この二つは融合、変化することなく各々の本性は常に保全されている。


クロッサンのイエス理解
イエスは病癒しの為様々な場所で奇跡と食卓を平等に分かち合う場を設けようとしたが、当時の血縁と性差別に基づく集団主義が根付く社会では難しいことだった。ラディカルな平等主義を実現するにはパトローヌス・仲立ち人・クリエンテスからなる社会構造を破壊する必要があり、その為に巡回宣教を行っていた。

グレゴリオパラマスの人間神化論
人間は神の超本質であるエネルゲイアによって神の本質的な豊かさを得ることが出来る。人間が神の本質を得るということはつまり人間全体が霊化されていくことであり、結果神へと近づくこととなるという考え。

ドイツ神秘思想
神は人の中にあり、その人の中にありながら神は総ての神性を持つ“我らと共なる神”である。そして神が人間に向けて絶対的自己譲与を行うことを通じて、人間の神への自己超越が可能になり、この事が総ての人間の約束となればこれが人間と神との結合を意味するという思想。

真言密教
密教とは顕教に対する呼称。究極世界での最高絶対の悟りを示す開きがたい教え。固定化・理論化した大乗仏教にかわる新しい教えとして発展した。真言密教では三密の実践、すなわち印契を結び真言を唱え、心を仏の悟りの境地に置けば現身のまま成仏でき加持祈祷により現世利益を得られるとした。空海はこの密教の特徴として果分可説、即身成仏、教法殊勝、法身説法の四つを挙げた。


即身仏信仰
この世で自らの肉体と魂を清浄に保って永久保存体となり弥勒下生を待つ究極の信仰形態。また今でも高野山の奥の院で空海がミイラ仏となって弥勒下生の時を待っているという伝説がある。

2012/01/24

ジャンル不明 精神不安定








個人的にシュンとした気持ちになると聴きたくなる曲たち。





Balam Acab - See Birds





oOoOO - Burnout Eyess





HOLY OTHER - YR LOVE

洗礼の儀式ってあこがれるんですよね。
寒そうだけど。




GuMMy†Be▲R - GURL




LAKE R▲DIO - Tapeface




Massive Attack - Teardrop




†‡† (Ritualz) - gOth bb




自分で貼っといて気分悪くなってきたんで寝ます。
ノイズは嫌だけど、こういうのが大好物です。



2012/01/13




派手な外装の建物を出ると痛くなるような寒さに思わずため息が出た。
肺の中の空気をゆっくりと吐き出せば、それは白く濁った色になって大気を汚し、
すっかり暗くなった空を仰ぎながら、煩雑なホテル街から駅へ向かう間はどうしても無口になる。
沈黙が冬の空気をますます冷やす。
ふと寒さに感覚を失っていく指先に視線を移せば自らの薬指に光るモノの所為で胸がチリと痛んだ。
罪悪感からではない。
苦しいまでに膠着した今の関係が、総ての人を不幸にする自分の存在が痛くて仕方がないのだ。
考えることを止めた頭が思い出すことが出来たのは煙草の味で、
ポケットの中でくしゃくしゃになっていたそれを取り出して咥える。
そうして仕舞えなくなった左手を意味もなく曲げ伸ばししていると、
手首を伝って少しだけ温かい手が規則的に動いていた手をひしっと掴んだ。
普段二人が手を繋ぐことはない。
ホテル街を歩いているのに何を言っているのかと自分でも思う。
そんなくだらないことが可笑しくて、可笑しくて、
可笑し過ぎて涙が止まらない。




僕が君の手を握り返したのは、言葉にならなかったから
(何も言うことが出来ない僕をどうか許さないで)



お題:確かに恋だった



2012/01/10

精液程の感情



殴る。
頭、顔、胸、腹を殴る。
その総ての皮膚は裂け血が滲む。
痛い、痛いと訴える声が聞こえない訳ではない。
止めどなく流れる涙が見えない訳でもない。
そんなことは問題ではない。
こうして殴られ、訴えも聞き入れられないにも関わらず、それでもなお俺に愛情を向けるこいつが憎い。
そうやって俺の心に漬け込もうとする。
こいつしかいないのだと錯覚させようとする。
だから殴る。
頭、顔、胸、腹。
「ちょっと、何やってるの」
止めに入った友の顔は青ざめ、転がる人間は泣きながら言う。
「愛してる」
その顔に唾を吐きかければ怒れる友の拳が飛んできた。
込み上げた笑いが止まらない。



護身としての発狂。
誰にもまともだなんて言わせない。





.
貴方が優しいのが悪いんです。
その幸福が僕を鈍らせた。
それが気持ち悪くて、居た堪れなくて、最後は生きていることすら辛くて仕方がなかった。
そう、貴方が優しくするから。

大切な人傍にいなくなった不安を埋めるのは誰でも良かったのでしょう?
安心できる筈も無いのに貴方は馬鹿みたいに簡単に僕を手中に収めた。
僕が何もかも理解しているとは知らずに。
誰かの代わりであり続けているうちは良かった。
触れて伝わる熱もたまに言う戯言も総て冗談で済ませられるうちは正気でいられた。
なのに時間は怖いもので。
貴方はだんだんあの人の影を僕に重ねなくなり、只管僕を抱くようになった。
その頃から僕の感覚は少しずつ鈍り、息をしているのかどうかさえ意識しなければいけない程で。
代償は僕にとって変え難い苦しみだった。
毎夜優しく抱かれるその腕の中で、上にいた貴方に声をかけたのはただの気紛れだったのだと思う。

「貴方はあの人に捨てられたんです。」

普段表情一つ変えることのない貴方の顔が歪み、冷たい平手打ちが飛んできた時は僕の正気が蘇った瞬間とイコールとなった。

あゝ、またこれで気が狂いそうにまともな日常が始まる。

幸福の代償。
それは人を鈍らせる。

.

2012/01/02




僕が存在することが貴方の生きる意味であればいとただ必死に想ったのに、結局伝える前に貴方は居なくなった。後悔ではない。無力な自分への純粋な辟易である。