2013/10/30

2013/10/29


とても寒くて、雨を避けて歩いたら、なりたくない自分になっていた。
煩くて、恥を知らなくて、苛ついて、誰かと自分を比べて吐き気がする。
苦しくて、人と繋がろうと交信機を手にとっても、送る相手が居ない。
誰とも交われない。
それでも、さみしいにんげんだと認めることすら出来ないのだから。
さようなら。

2013/10/29

嘘の国


 ずっと、あの遠い星が故郷だと思っていた。だから、あの場所に戻って行くのは自然なことだと。いつの間にか、この世界に慣れてきて、昔の記憶が薄れてしまうようになって、言葉も忘れてしまったけど、それでもずっと、あの星が私の始まりだと思っていた。
 それに、物心ついた時には霊魂が漂っているのも、悪意が人々の間を漂うのも全部見えていた。見たくなくても、視界に入っていた。なのに、それは世界の殆どの人の目には届かなくて、怖かった。

この世の何もかもが嘘のように思えた。


2013/10/16

『ゴシックスピリット』 高原英理




物心ついた頃から怪奇なもの怖いもの暗がりにあるものが気になって仕方なかった。夜とか墓場とかお化けとか怪談とか、そうした想像が興味の大半を占めていた。

集団生活と共同作業が苦手だった。幸い今のところ徴兵制はないからよいが軍隊に入れられたら耐えられないだろうとよく考える。

平穏が続くというのが信じられない。いつも死のイメージばかり考えていた。

死は膜一枚で隔てられているだけと思っていた。今もそう思っている。

ダークな感じ、陰惨なもの、残酷な物語・絵・写真を好む。

ホラーノヴェルもホラー映画も好きだ。

時代遅れと言われても耽美主義である。いつもサイボーグを夢見ている。肉体の束縛を超えたい。
両性具有、天使、悪魔、等、多くは西洋由来の神秘なイメージを愛する。

金もないのに贅沢好み。少女趣味。猟奇趣味。廃墟好き。退廃趣味。だが逆の無垢なものにも惹かれる。

情緒でもたれあう関係を嫌う。はにかみのない意識を嫌う。顔を合わせれば愚痴を言い合い、ハードルをより低くして何でも共有してしまおうとする関係を見るたび、決して加わりたくないと思えてしまう。自らの個の脆弱さは身に滲みて知っているつもりだが、だからこそ、最初から最低レヴェルで弱さを見せ合い嘆き合おうという志の低さが気に入らない。

欲望そのものはよいとしても野卑で凡庸な欲望の発露を厭う。主に性に関する場合が多いのだが、「不倫」だの「結婚願望」だの「恋の駆け引き」だのといった予断に満ちた語は性の形をひたすらありきたりに陰影なく規格化していて腹立たしい。いくらでも異様な発露を見せうるはずのことを常に決まりきった形で安く語る言葉が嫌悪されてならない。

自信満々の人が厭だ。弱者だからと居直る人も厭だ。「それが当たり前なんだから皆に合わせておけ」と言われると怒る。はじめから正統とされているものにはなんとなく疑いを感じる。現状の制度というのが決定的な場面では自分の味方でないように思える。いつも孤立無援の気がする。

気弱のくせに高慢。社会にあるどんな役割も自分には相応しくない気がする。

毎朝、起きると、また自分だ、と厭になる。自分ではないものに変身したい。それは夜に生きる魔物であればよい。

そこに善悪は問題でない。美しく残酷なこと。きりきりと鋭く、眠るように甘いもの。ときにパンク、ときにシュルレアリスティック、またときに崇高な、暗い魅惑に輝くそれがゴシックの世界であると私は信じている。



2013/10/11

ピエロの世界




いつからそうなんだ、と聞かれても当然のように生まれた時からと答える他ない。両親がいない訳でも、孤児院で育った訳でも、その孤児院で虐待された訳でも、大きな夢に破れた訳でもない。況して家がヤクザだった訳でもない。他の普通の人と同じように父親も母親も居て、なんなら一人年上に女の兄弟も居て、家庭崩壊なんてこともなくここまで生きてきた。小学校は公立だったけど、いろんな奴が居る中で先生に同級生の悪さを告げ口して生きているような子供だったし、中学では自分の位置を確かめる為にくだらない虐めをする奴らの太鼓叩きをしてきた。高校生になってからは、番長と呼ばれる奴に気に入られて、それも度を超えて何を血迷ったか襲われかけたりもしたけど、その時は他校の番長に囲われたりなんだりでそのまま卒業。経済学くらいなら興味もあったけど、学校そのものがどうでも良くなっていたから大学には行かなかった。決して頭が悪かった訳じゃないということは言っておきたい。そうしているうちに、この街に落ち着いていた。

初めのうちは学生の頃と同じようにお金を持っていて強そうな人間の周りをうろついて、そいつに取り入る為に何が必要か考えた。それまでだったら気に入った女の番号とか、バイト先の情報だとかそんな程度のものだったけど、もう少し頭を使って集めてきた情報はなにより大きな金になった。その頃、ああ、金っていいな、好きだなってことをはっきりと自覚して、その生活に拍車がかかった。それが仕事になっていった。

これが天職なんだってことは誰に言われなくても自分がよく分かってた。そのことに悩みもしなかった。嫌という程自分のことは知っていたし、寧ろそれだけが、鬱陶しかった。情報屋っていう街と人を監視し続けるような仕事をしていれば毎日飽きることはないと思っていたのに、3年もすれば総てのことに慣れてしまって、警察だってヤクザだって何も怖くなかった。そうして平凡な日常に成り下がっていた。気づいてみれば街には均衡が保たれていて、それを乱そうなんて奴はいなかった。あの時までは。

あの人は誰も信用していなかった。そうすることが怖くて、それと同時にそうすることが出来ない自分を恐れていた。ああいう自分しか信じられない人間は、自力でなんでもしていまうから情報屋なんかが持っていく話は殆ど必要としていなかった。それなのにボロボロになってあの人は目の前に現れた。そうは言っても、頼ってきたなんてことはなくて、今まで他の人にされてきたように上手く使われていただけだ。だから、こっちも貰えるものだけ貰って早々におさらばするはずだった。なのに、あの人に身を預けてしまった。そうして、飛び込んで、一部になってしまえば予想していなかったあの人の感情に触れることとなった。あの人は恐怖以外にも沢山の感情を抱えて暗い世界の真ん中に立とうとしていた。そんな風に手の内を明らかにしている人間を前にして、言いようもない想いが生まれていた。

「僕はあんたに命を預けるよ。だからさ、好きに使って」

あの人が人間を信じたいと思うように、人間に必要とされたいと願う自分がいた。今までもこれからもその一心で生きていた。そのことを周りがどう思ってようと関係ない。

一人で走って行ったあの人を見て、自然と自分も笑っていた。楽しかった、平和が壊れて力が総ての世界が現前化されていくようで。所詮、形だけの安心は何の意味もなさない。それならば必死にもがいていても離れないように首と首を結び合っている方が生きていることを感じられる。他の人間がそれを望むかどうかは分からないが、少なくとも今必要なのはそういう繋がりだった。

心が満たされていた。
ただ、しあわせだった。