2013/02/28

2013/02/28


今、私が居るところでなくても誰かに支えられて生き続ける。だから何処にでも行ける気がした。

2013/02/26

海が月を孕んだ朝にぼくの美しい母は死にました





その日は何もかもが厭わしく、腹立たしく、惨めに見えた。車から建物に入る一瞬、全てを捨てて逃げてしまおうかとも思ったけれど、何処にも行く場所はなかったし、出来ることもないし、仕方なく目を瞑りながら観たいものだけを想像した。

僕は、僕の役目さえも果たせない。
人の振りを見て抱く悪意は全て自分の所為だと分かっているのに何もせず、感情を顔に表して周りを困らせる。ある人からは直接叱られ、ある人は見て見ぬふりをして、ある人は見下しながら僕を慰める。そうして僕はますます可哀想な子になっていく。どんどん落ちていく。音が聞こえる。体が空気を切って、急降下していく音。それはまるで体の中から聞こえるような低く、重い音だった。

家に帰ってきても、一人になれる訳じゃないのに、怖くて震えていた。あの落下音が耳から離れない。「若いから」と一括りにされた不安はじわじわと体の中に染み込んで初めは好きで迷い込んだ思考の中で溺れていた。いっそ本体も。そう思って浴槽に浸かった。

そこに彼が居た。「一緒にいてあげるよ」とここまでついてきた。彼は衣服を身に付けたまま浴槽の縁に腰掛けてボディーソープを詰め替えている。その毒々しい科学的な匂いと、溢れる泡を纏ったような人は何も話さず、黙々と作業を続ける。

僕は静かに目を瞑った。
想像の中の僕の前に現れたのは世界で一番知っている人。育ててくれた女の人。若い彼女はまだつかまり立ちしか出来ないような子供を抱いて、水に浸かっていた。神々しく輝く女性の顔は、泣いていて、それを見て僕も泣いていた。

「僕も子供だったから、あれが本当なのか妄想なのか分からないけれど、あの映像が見えるようになってから僕は落ちていく自分自身に気がついたんです」

依然、ボトルと泡と香りを抱えそこにいた彼に僕はそう言った。彼は何度か瞬きをした後、泡の付いたままの手を僕の頭に乗せて笑う。そうしてそのまま下に押されると当然僕は浴槽に沈んでいった。ぶくぶくと泡を吐き、溺れる僕は急降下していく時のように状況を受け入れるわけでも、客観視する訳でもない。ただ「死にたくない」と必死でもがいた。

「お前が夢見た場所には近づけた?」

彼は未だ浴槽の中の僕にそれだけ言うと、頭の上の手をどけて溺れる僕を救いあげた。そうして僕は自分の為にまた只管泣いた。その間、彼は僕の頭を撫でながら子供をあやすようにして笑う。僕はまだこんなにも子供で、なのに世界を知ってしまった。そして僕の中には総てを失うことを意味する想いが生まれている。

彼が---。




title by 月葬 

2013/02/22

BTD考察






西暦30XX年

その頃の地上には人間の姿はなく、あるのは朽ち果てた廃墟かもしくは砂漠の大地だ。
以前までその場所に居た動物たちはある病原体の恐るべき流行によりそのほとんどが消滅し、生き残ったものたちも隠れるように地下に潜った。
そこにもう希望はない。
まっさらで空虚な世界だった。

しかし、地下に潜ることも許されず、幸か不幸か病原体の脅威から逃れた人間たちが僅かに居た。
彼らはひっそりと、確実に生きながらえ、血が濃くなることを恐れながら生きていた。

ある日、地下人間たちの中で地上を調査しに行こうという話になり、完全防備の様相で地上に出てきた。
そこに生命などあるはずがない、と誰もが思っていた。
けれど、そこには彼らが居た。
地上で生き延びた彼らが居た。

地下人間たちは驚き、奇異の目で彼らを眺め、いつしか調査研究という名目で彼らを実験台にし始めた。
その頃には彼らと地下人間の間で共有できる文化や言語もなく、免疫の落ちた彼らには殆ど地下人間に抵抗する力はなく、言われるがまま体を破壊された。
一人、また一人と彼らは仲間を失っていく。
隔離と言う名で押し込められた地上の廃墟の中で彼らは生きているのに死んでいった。
そうして、二人が残された。

彼ら二人は、他のものと同じように何度も何度も実験にかけられ、その体は見えない部分から蝕まれている。
もう、お互いがお互いを認識できない程に。
そして生きている実感もない程に。
今の敵は誰で、自分たちが何処に居て、誰を傷つけて、自分自身が誰なのか、分かる術がない。
ただ二人はお互いのことを殴りつけ、痛みで意識を確かにさせた。
二人以外には見えないけれど彼らの目の前には敵が居て、それが彼らの中で作り上げられた虚構だということに気がつきもしない。
黒い服を着た帽子の男。
そうしてその男を倒すことだけど考えてまた殴り合う。
それがまるで本当に居る敵を倒すかのように。

ふと、気がついた二人は互いに肩を貸して歩いていた。
ただひたすらに出口を目指して。
傷つけられた脳も、殴られた体も、内側から腐った内臓も全てが痛い。
それでも彼らは歩く。
いつも一緒に過ごした仲間たちを探して。
居なくなってしまった仲間たちを探して。
窓の向こう、消えてしまったものたちの最後の姿を見つめている。

2013/02/16

2013/02/16

i went to nakano with my friend and i bought this zine made in korea.
the man is one of my favorite tattoo artist named novo.
about his works
 in this zine

and i drew it inspirited by his works 

2013/02/06

刺青は色を入れる前に瘡蓋を作り溝を掘りそこに顔料を流し込みます


目を覚まして、布団から顔を出すと鼻先だけが冷えて痛い。これだから冬は嫌いなの、私がそう言うとじゃあ俺は好きだって。寒かったら抜け出すことさえ嫌になる。ずっとここに居るんだろうって。馬鹿じゃない、と体を全部出してしまえばやっぱり凍えるよう。腕だけが名残惜しく引かれる。「もう少し」昨日遅く帰ってきて、お酒とたばこと香水の臭いをさせていたのは誰よ。まだ眠いのだって自業自得でしょ。暖房に電源を入れて、電気ケトルに水を入れてセットする。これがいつもの私の仕事。部屋が暖まるまで、お湯が沸くまで、再び暖かなその場所に戻ると大きく開いた腕に迎えられる。痛々しい、けれど美しい、肩のタトゥー。「もう入れないの」「入れてもいいんだけど」彼が最後に入れたのは、あの人が死ぬ前。あの人がまだ生きて輝いて頃。私はまだよく知らなかった。ただの子供だったから。こつんと額を胸に当てて、大きく息を吸った。今私がここにいる。そろそろ忘れよう。なのに頭の中はそう簡単に分かってくれない。何も聞くことが出来なければ、あなたのことを全部受け入れることも出来ない。やっぱりまだ子供なのね。腕が背中に回る。苦しい。「見かけによらず、いつも悩んでるから」それが彼の悩みなんだと教えてくれた。この胸の中の黒い感情は消えることがあるのかしら。正面からあの人を見つめられるのかしら。「ねぇ」響いた音がお湯が沸いたと伝える。「愛してるのに」「苦しい」