2013/02/06

刺青は色を入れる前に瘡蓋を作り溝を掘りそこに顔料を流し込みます


目を覚まして、布団から顔を出すと鼻先だけが冷えて痛い。これだから冬は嫌いなの、私がそう言うとじゃあ俺は好きだって。寒かったら抜け出すことさえ嫌になる。ずっとここに居るんだろうって。馬鹿じゃない、と体を全部出してしまえばやっぱり凍えるよう。腕だけが名残惜しく引かれる。「もう少し」昨日遅く帰ってきて、お酒とたばこと香水の臭いをさせていたのは誰よ。まだ眠いのだって自業自得でしょ。暖房に電源を入れて、電気ケトルに水を入れてセットする。これがいつもの私の仕事。部屋が暖まるまで、お湯が沸くまで、再び暖かなその場所に戻ると大きく開いた腕に迎えられる。痛々しい、けれど美しい、肩のタトゥー。「もう入れないの」「入れてもいいんだけど」彼が最後に入れたのは、あの人が死ぬ前。あの人がまだ生きて輝いて頃。私はまだよく知らなかった。ただの子供だったから。こつんと額を胸に当てて、大きく息を吸った。今私がここにいる。そろそろ忘れよう。なのに頭の中はそう簡単に分かってくれない。何も聞くことが出来なければ、あなたのことを全部受け入れることも出来ない。やっぱりまだ子供なのね。腕が背中に回る。苦しい。「見かけによらず、いつも悩んでるから」それが彼の悩みなんだと教えてくれた。この胸の中の黒い感情は消えることがあるのかしら。正面からあの人を見つめられるのかしら。「ねぇ」響いた音がお湯が沸いたと伝える。「愛してるのに」「苦しい」





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