2013/12/16

DREAM


わたしは、程々ずるかった。

だから、最後の瞬間は抵抗したり、無駄な弁解もせずその場に立っていた。そうして、目の前で殺気立つ人間ではなく、その向こう、本当は居るはずもない人を見ていた。その人はわたしにとって唯一の人だと今は思っているけれど、もしこんなことが起きずに、ただ平穏に暮らしていたら、一年ともたずに別れているかもしれない。それでも、今、わたしにはあの人しかいない。そう思える。

走って行った人間のことを考える。とてもなだらかな付き合いだった。お互いを知って「すきだ」と言い、いつも笑って過ごしていた。あまりにも普通過ぎて、気に留めない程だった。だから、あの人が現れて、自然とそちらに気が向いて、そうなってから、何も伝えなかったのも、況して謝らなかったのも、わたしの中ではとても取り留めのないことだった。ただ、不幸せそうだなどと無責任にも考えていた。でも、それだけだった。そうしてこうなった。

嗚呼、なんでわたしは好きになったのだろう。あの人の記憶が思い出せない。なにも、かもが、ない。

2013/10/30

2013/10/29


とても寒くて、雨を避けて歩いたら、なりたくない自分になっていた。
煩くて、恥を知らなくて、苛ついて、誰かと自分を比べて吐き気がする。
苦しくて、人と繋がろうと交信機を手にとっても、送る相手が居ない。
誰とも交われない。
それでも、さみしいにんげんだと認めることすら出来ないのだから。
さようなら。

2013/10/29

嘘の国


 ずっと、あの遠い星が故郷だと思っていた。だから、あの場所に戻って行くのは自然なことだと。いつの間にか、この世界に慣れてきて、昔の記憶が薄れてしまうようになって、言葉も忘れてしまったけど、それでもずっと、あの星が私の始まりだと思っていた。
 それに、物心ついた時には霊魂が漂っているのも、悪意が人々の間を漂うのも全部見えていた。見たくなくても、視界に入っていた。なのに、それは世界の殆どの人の目には届かなくて、怖かった。

この世の何もかもが嘘のように思えた。


2013/10/16

『ゴシックスピリット』 高原英理




物心ついた頃から怪奇なもの怖いもの暗がりにあるものが気になって仕方なかった。夜とか墓場とかお化けとか怪談とか、そうした想像が興味の大半を占めていた。

集団生活と共同作業が苦手だった。幸い今のところ徴兵制はないからよいが軍隊に入れられたら耐えられないだろうとよく考える。

平穏が続くというのが信じられない。いつも死のイメージばかり考えていた。

死は膜一枚で隔てられているだけと思っていた。今もそう思っている。

ダークな感じ、陰惨なもの、残酷な物語・絵・写真を好む。

ホラーノヴェルもホラー映画も好きだ。

時代遅れと言われても耽美主義である。いつもサイボーグを夢見ている。肉体の束縛を超えたい。
両性具有、天使、悪魔、等、多くは西洋由来の神秘なイメージを愛する。

金もないのに贅沢好み。少女趣味。猟奇趣味。廃墟好き。退廃趣味。だが逆の無垢なものにも惹かれる。

情緒でもたれあう関係を嫌う。はにかみのない意識を嫌う。顔を合わせれば愚痴を言い合い、ハードルをより低くして何でも共有してしまおうとする関係を見るたび、決して加わりたくないと思えてしまう。自らの個の脆弱さは身に滲みて知っているつもりだが、だからこそ、最初から最低レヴェルで弱さを見せ合い嘆き合おうという志の低さが気に入らない。

欲望そのものはよいとしても野卑で凡庸な欲望の発露を厭う。主に性に関する場合が多いのだが、「不倫」だの「結婚願望」だの「恋の駆け引き」だのといった予断に満ちた語は性の形をひたすらありきたりに陰影なく規格化していて腹立たしい。いくらでも異様な発露を見せうるはずのことを常に決まりきった形で安く語る言葉が嫌悪されてならない。

自信満々の人が厭だ。弱者だからと居直る人も厭だ。「それが当たり前なんだから皆に合わせておけ」と言われると怒る。はじめから正統とされているものにはなんとなく疑いを感じる。現状の制度というのが決定的な場面では自分の味方でないように思える。いつも孤立無援の気がする。

気弱のくせに高慢。社会にあるどんな役割も自分には相応しくない気がする。

毎朝、起きると、また自分だ、と厭になる。自分ではないものに変身したい。それは夜に生きる魔物であればよい。

そこに善悪は問題でない。美しく残酷なこと。きりきりと鋭く、眠るように甘いもの。ときにパンク、ときにシュルレアリスティック、またときに崇高な、暗い魅惑に輝くそれがゴシックの世界であると私は信じている。



2013/10/11

ピエロの世界




いつからそうなんだ、と聞かれても当然のように生まれた時からと答える他ない。両親がいない訳でも、孤児院で育った訳でも、その孤児院で虐待された訳でも、大きな夢に破れた訳でもない。況して家がヤクザだった訳でもない。他の普通の人と同じように父親も母親も居て、なんなら一人年上に女の兄弟も居て、家庭崩壊なんてこともなくここまで生きてきた。小学校は公立だったけど、いろんな奴が居る中で先生に同級生の悪さを告げ口して生きているような子供だったし、中学では自分の位置を確かめる為にくだらない虐めをする奴らの太鼓叩きをしてきた。高校生になってからは、番長と呼ばれる奴に気に入られて、それも度を超えて何を血迷ったか襲われかけたりもしたけど、その時は他校の番長に囲われたりなんだりでそのまま卒業。経済学くらいなら興味もあったけど、学校そのものがどうでも良くなっていたから大学には行かなかった。決して頭が悪かった訳じゃないということは言っておきたい。そうしているうちに、この街に落ち着いていた。

初めのうちは学生の頃と同じようにお金を持っていて強そうな人間の周りをうろついて、そいつに取り入る為に何が必要か考えた。それまでだったら気に入った女の番号とか、バイト先の情報だとかそんな程度のものだったけど、もう少し頭を使って集めてきた情報はなにより大きな金になった。その頃、ああ、金っていいな、好きだなってことをはっきりと自覚して、その生活に拍車がかかった。それが仕事になっていった。

これが天職なんだってことは誰に言われなくても自分がよく分かってた。そのことに悩みもしなかった。嫌という程自分のことは知っていたし、寧ろそれだけが、鬱陶しかった。情報屋っていう街と人を監視し続けるような仕事をしていれば毎日飽きることはないと思っていたのに、3年もすれば総てのことに慣れてしまって、警察だってヤクザだって何も怖くなかった。そうして平凡な日常に成り下がっていた。気づいてみれば街には均衡が保たれていて、それを乱そうなんて奴はいなかった。あの時までは。

あの人は誰も信用していなかった。そうすることが怖くて、それと同時にそうすることが出来ない自分を恐れていた。ああいう自分しか信じられない人間は、自力でなんでもしていまうから情報屋なんかが持っていく話は殆ど必要としていなかった。それなのにボロボロになってあの人は目の前に現れた。そうは言っても、頼ってきたなんてことはなくて、今まで他の人にされてきたように上手く使われていただけだ。だから、こっちも貰えるものだけ貰って早々におさらばするはずだった。なのに、あの人に身を預けてしまった。そうして、飛び込んで、一部になってしまえば予想していなかったあの人の感情に触れることとなった。あの人は恐怖以外にも沢山の感情を抱えて暗い世界の真ん中に立とうとしていた。そんな風に手の内を明らかにしている人間を前にして、言いようもない想いが生まれていた。

「僕はあんたに命を預けるよ。だからさ、好きに使って」

あの人が人間を信じたいと思うように、人間に必要とされたいと願う自分がいた。今までもこれからもその一心で生きていた。そのことを周りがどう思ってようと関係ない。

一人で走って行ったあの人を見て、自然と自分も笑っていた。楽しかった、平和が壊れて力が総ての世界が現前化されていくようで。所詮、形だけの安心は何の意味もなさない。それならば必死にもがいていても離れないように首と首を結び合っている方が生きていることを感じられる。他の人間がそれを望むかどうかは分からないが、少なくとも今必要なのはそういう繋がりだった。

心が満たされていた。
ただ、しあわせだった。



2013/08/29

twins - suicide - reborn



苦しかった、単純に。
息をしようとも何も取り込めず、結局吐き出し続けていた。僕が鏡のようなお前を見る時、なんで鏡じゃないんだろうと思った。何度も何度も思った。でも、どうしようもなかった。仕方がなかった。僕は苦しいままでお前は笑っていて、僕は泣いていてお前は僕を蔑んだ。同じ時にこの世界に落っこちてきて、不幸だったと一緒に嘆くこともしないでお前は他の誰かと同じように「普通」を生きていた。何故、僕は、何故、お前は生きているのだろう。元々一つだった細胞が神様の勝手で二つに分けられて、今じゃこの有様だ。今日は何かが変わる。生まれた時みたいに総てが終わって、総てが始まると思えば思うほど息がしにくくなって、記憶が白くぼやけてくる。本当は何もなかったんじゃないか、僕はお前の影なんじゃないかって思ったところでそんなことなくて、やっぱり苦しかった。

ずっと前、僕が生まれたあの日。そんな日のことは覚えてすらない。そして今日、何回目かの記念日なのに、それは僕のものではない。僕は生きる影で、僕に送られる「おめでとう」はお前のものになる。そうして返された「ありがとう」も僕の口からは出てこなくて、代わりに僕は飲み込んだものを吐きだした。僕の周りは汚れて、貰ったプレゼントは落ちて破片が散らばっている。僕の記念日。僕の始まった日であり、僕が後悔し始めた日は、お前にとっては最高の日なんだろう。

でも、今日は僕の記念日。今まで苦しんで泣いても生き続けた僕の記念日。僕は僕に「おめでとう」と「ありがとう」を送る日だから、お前はこの中で待っていて。

嫌いなはずない。そんな風に考えたことは一度もなかった。ただちょっと羨ましくて、ただちょっと悲しかった。僕はお前で、お前は僕なのに思ったようにいかなくて。気付いてほしいのに見てもくれなくて。どんなに足掻いても一人だった。

聴いてる?僕の話。
大丈夫、僕はここに居るよ。だから寂しくないし、悲しくもない筈だよ。苦しいなんて嘘。一度僕も入ってみたから。その中に居ると、覚えてない筈のお腹の中を思い出して落ちついた。だってこの世に出てくる前の短く穏やかな日々だからね。その中でゆっくり目を閉じると、麻の織りの少しだけ荒いところから光が入って来て気持ちが良いんだ。大丈夫、こわくないよ。僕がここに居るからね。

叫んでいる声は僕にはとても意味がなくて、騒音と溶け込んでいくように感じる。そうだ、僕の一番嫌いな言葉はね「おめでとう」なんだよ。理由はなんとなく歯痒いからだと思ってる。うん、たぶんね。誰にも言われたことないけど。

大丈夫、こわくないよ。僕がここに居る。
ああ、そうだおめでとう。今日はお前の誕生日だよ。だから僕にも言って、「おめでとう」って。そうしたら僕も「ありがとう」って言える。おめでとうありがとう。僕ももう大丈夫。僕の始まった日と僕自身を記念する日に初めて意味があるものになる。

明日の朝目覚めたら、きっと僕は笑っている。息を大きく吸い込んで総てのことに感謝する。分かるんだ、そんな些細なことが。他の人にとって、そしてお前にとってちっぽけなことが僕に出来るようになる。なんて簡単なんだって手放しで喜んで、お前のことも大切にする。

でも、きっとすぐ思い出す。僕らは不幸な世界に落っこちてきたことを。

大丈夫、こわくないよ。僕がずっとここに居るから。





2013/08/12

Summer Sonic 2013/10/aug

Because I stayed up all night, I had to be helped by Red Bull 

 Summer Sonic 2013 with college friend
 CHEVRCHES

girl in this band was so cute!
 BASTILLE

 so hot anyhow
 Fall Out Boy

They are my evergreen band.
I was waiting for them to re-form and play songs again for 4 years.
When they sang "Saturday" the last, I was impressed and cried.
Patrick is my angel and Pete is my hero always.

Island Stage
 my friend
 Steve Aoki again 

I didn't go to see Linkin Park, but I could see Chester and Mike Shinoda there.
Steve Aoki took them to his stage. 
Lucky me~~
 Glen Check

This is a band which I wanted to see most. 
I'm going to introduce them a little.
Glen Check is a South Korean indie band, consisting of singer and guitar player June-One Kim and bass and synthesizer player Hyuk-Jun Kang.
They were living abroad, so they have sung almost in English expect this song.
Maybe they can speak French?
By the way, because of time (2 am) audiences weren't many, but their play and VJ was great.
I wanna see again,so hope them to come Japan by live tour. 

 Go chic


I had nice tow days at Makuhari.
I won't forget these days as my last student year and I want to go again!

  

Sonic Mania 2013

I went to Sonic Mania 2013 with my friends

 my look was like this
 with my friends
 had drinks


 I fell in love into this band, called MODESTEP

 Denki Groove
 dead friend
 and crazy friend
Justice


I had happy and crazy time at Sonic Mania.
It is the second times I go there.
 This time, MODESTEP and Steve Aoki were my best acts!
Klaxons was so nice too and they played their new songs.
I wanna go with my funny and crazy friends next time too.

2013/08/07

130804 KAMAKURA


鎌倉に行ってきました。これが3度目の鎌倉です。


まず向ったのは鶴岡八幡宮。







とてもとても暑かった。そして、


はい、次行きます。
そのまま参道を下っていったところに素敵なイタリアンカフェがありました。
今は改装したのか少し写真と雰囲気が違いました。


コーヒーおいしい、でもレモンジュースがオススメです。

で、江ノ島へ。



 


その次に七里ヶ浜。



アマルフィカフェで食べたやつ。名前は忘れた。
すごくおいしかった。


Billsっていうお店が有名なのですが混んでいました。



そして、帰宅。日帰りでしたがまた夏に行きたいです。あ、春でも可。




2013/07/29

Cleansing Cream






白を見ていると無性に塗り潰したくなる。僕の心は黒いのだろうか。

部屋に入ると振動に気がついた君が歩いて来た。それを僕は抱きしめはしない。何故なら今日はもう少しだけ必要とされる人間でいたいから。だから、テーブルやソファ、ローテーブルに体をぶつけながら手探りでやってくる君を僕はするりとかわしながら見詰める。まるで、暗闇の中でピアノの音だけを聞きながら踊っているみたいだ。けれど実際は、蛍光灯は煌々と明かりを放っているし、TVだって付けられていた。僕が、付けたまま部屋を出たから。なのに、君は気がづかない。気が付きもせずに、ひとり闇の中で踊っている。

君が探している人を僕は知っている。明るく笑って、煩いくらいに他の人を愛する人。そうして、この踊り子を一番愛した人。僕は彼を知っている。彼がどうなったかを知っている。だから、この部屋に簡単に侵入して、今日も君が舞い続ける様子を見ることが出来る。僕は、とても狡い人間だ。

「あっあ」

元々は全部の感覚がちゃんと備わって、自由に世界と通じ合えていたというから「なにか」発することは出来るのかもしれない。でも、無口な性格なのか一度も言葉を聞いたことはない。もしかしたら、これは君と彼の間でだけ交わされる言語なのか。そうだと思ったら、咄嗟にカウンターにあったカップを握って床に叩きつけていた。それをきっかけにして、君がこちらに足を擦って来るから踏みつけられた欠片が君の裸足の足を傷つける。全部、僕が悪いのだ。しても仕方がない嫉妬をして、カップを無駄にして、君を傷つけた。それでも、君から逃げ続けるのは、欺瞞で優しさだ。触れてしまえば感覚を尖らせた君に総て明らかになってしまう。一方で、そうならないまま探し続ける間は君にとっても幸せだろう。だって、本当ならば、そんな追いかけっこさえ出来ない筈なのだから。

血が床に塗り広げられる。赤く、なっていく。そうじゃない。そうなって欲しいなんて望んではいなかった。僕は白い君に黒くなって欲しかった。黒く塗り潰して、息が出来なくなるまで。そうすれば気がつくかもしれない。この世界にはもう、君を救ってくれる人はいないのだと。彼はもう、いないのだと。

痛みに耐えながら、それでも居ない影を追い続ける君は愚かだと思った。否、それよりも影以下になり下がって見詰めることしかしない僕は何なのだろう。やっとのことで存在だけで浴室まで連れてくると僕は息を大きく一つ吸い込んだ。少し捻ると水が降り注がれる。雨のような空気の振動を感じただろうか。微かに身を引いたのを僕は見逃さない。強く腕を引いて、水に当てると君は呻いた。それはまた、僕には分からない言語。彼と君のふたりだけの言葉。虫唾が走る。ここには彼はいない。僕が居る。僕が彼の代わりなのではない。僕が彼をこの場所から引き擦り降ろしたのだから。

君の手を取って顔に触れさせて、僕を覚えさせる。そんなことが出来ない。それでも君は彼を探してずぶ濡れになりながら僕の腕をすり抜けよう体を捩るし、またあの言葉を発する。僕には何も分からないんだよ。君のことをこんなにも考えているのに何も分からないんだ。水が君に執着する僕の気持ちをますます綺麗に洗い流している。僕と同じ、黒に染めたいのに君はどんどん白くなっていく。その瞬間、君の体を押すと待ち受けていたような浴槽が、そしてその中の水が君を包んだ。また、暗闇の中で踊るように腕を彷徨わせる。思わず手を差し伸べるとそれさえ跳ね除ける。

「どうして、どうして分からないんだ」

声を張り上げたところで、君には伝わらない。どんな顔で訴えても君には伝わらない。いっそ、浴槽に沈めて酸素を求めるように僕に縋りつけばいい。なのに、それさえ君はしようとしない。ただ、ここには居ない人だけ探して助けを求める。

一気に気が抜けて、浴室にへたり込んだ僕の前には浴槽と肺に水が入ってもなお、僕を見ようとしない君が居る。こんなに、こんなに、

「       」

はっきりと聞こえた僕にも分かる言葉。一番聞きたくなかったその名前。





僕の心はこんなにも黒くなっていくのに、君は白いまま。
この世界に彼は居ないのに、君の心の中には彼が居る。




END


BGM : Brown Eyed Girls-Cleansing Cream 


2013/07/12

Violent Dreams




顔を上げると台形に切り取られた視界の中では遠くの方に小さく車をとらえていた。


その間も硬い手に腰を掴まれ、体が下の肢の間を中心に揺さぶられる。そうしようと思わなくても、寧ろそうしたくなくても口から喘ぎ出る音が何故だか自分自身の耳には届かず、聞こえるはずもない迫りくる車のエンジン音だけが頭の中に響いている。あの車の中には人が居る。二人の男。おそらく、人を追いかけ捕まえて悦に入るそんな仕事を公にしている人間だ。


あ、目が合った。


一度、後ろの人間に大きく体を打ちつけられて、背中が、そしてその中の背骨が仰け反ると自分が今乗っている狭い車内の天井が見えた。そこにあるのは粗末な照明灯。使われていなければ、ただのプラスチックの飾りであるようだ。その玩具みたいなものを確認した瞬間、大きく爆発する音が聞こえた。その一方、後ろで大きく息を吐き、唸る男は一度解放されたのに、まだ腰を離さず、次の準備をするかのように息を整えている。


再び、台形の世界を見ると車が燃えていた。


赤い炎と、黒い煙を吐きだしながら車が崩れ落ちている。中に居た人間はどうなったのだろう。慌てて逃げたのだろうか。そんな時間もないまま一緒に燃えてしまっているのだろうか。わからない。ただ、また揺れ始めた視界が涙の所為で更に不明瞭になっていくことを感じる。苦しい。押し潰される内臓も、目に映る光景も、総てが自分自身を責めてくる。もしかしたら、あの2人はここから救い出してくれるはずだった人間かもしれない。なのに、そんな事とは知らずに、ここで嬌声をあげていた自分が馬鹿みたいだ。


嗚呼、早く終わってほしい。


後ろから声もかけず只管動き続ける人のことを知っているようで思い出せずにいる。こんな風にこんなところでこんなことをされているの相手なのに、振り返っても顔の部分だけ影が落ち、黒く塗られて何も見えない。腰を掴んでいた手がいつの間にかその下の肉を撫で、前に伸びた。それからはくだらない一連の動きが続き、結局最後には自身も爆ぜた。


残響が耳に残っている。


車の爆発音と重なって、頭の中でハウリングが起きる。芯がぐらつき、力を失った腕が折れた。車のシートの皮に頬を擦り付けて少しだけ上がった体温を冷ます。右の頬だけ無機物になってしまう。そんな風に錯覚した。


目を瞑ると違う光景が見えてくる。


真夜中、裸で枕元の壁を撫で回している。冷んやりとして気分が良い。けれど、次第に自分の熱で温くなっていく、その筈なのにいつまでもその温度は変わらず、まるで望んだ通りだ。


不意に夢だとわかった。


ただ、自分が見たどちらの光景が夢なのか、判断がつかないというよりは、決めてしまうことが恐ろしい。現実はあまりにも夢のようで、夢は悉く現実的だ。直観する真実を前に、また目を瞑った。



次に見るのはどちら世界なのだろう。



BGM: Crystal Castles - Violent Dreams

2013/07/03

忠誠と情死



今まで僕は何不自由ない生活をしてきたんだ。家がね、ちょっと他とは違ってて、赤ん坊の頃からいつも周りには人が居て、転んだことさえなかった。ハサミも握ったことはないし、自転車も漕いだことがない。怪我することは許されなかった。

一度、下校中に練習していたサッカー部のボールが飛んできて、青痣を作ったここがあったのだけどその時は、当時僕を世話していた人間が次の日には居なかった。そんな僕に友達が出来るはずもなくて、だけどそれを悲しいと思うほど友人の大切さを知らなくて、ただそういう人間もいるよなってくらいに思ってた。

そんなある日、事件が起こった。僕の父親の商売敵の部下が学校に行く途中の僕を刃物で刺した。それはもう吃驚した。そんなこと今まで一度もなかったし、何より肉を断たれて血が出ることがこんなに痛いだなんて思わなかったから。傷自体は大したことが無かったのだけど、血が少なくなった所為で立っていられなくなって、痛みと失血感に興奮してた。どうしようもないくらいに気分が高ぶって気づいたら勃ってた。勿論、その時の付き人はその日のうちに居なくなってた。でも、そんなこと気にならないくらいに嬉しかった。

生きている感覚がない、っていうのは割りといろんなところで言われてるけど本当に今までの人生はそんな感じだったから。味もしないゴムみたいなものを噛み続けてるような、目の前にあるものが全部同じにみえるようなそんな風に感じて、もちろん感情らしいものは生まれてこなかった。だから、その出来事の中で知った痛みや興奮は今までにない未知の感覚で、それまでの空虚さが満たされていくようだった。

それからというもの、自分に対して折檻したり、態と高いところから転げ落ちたりしてみた。だけど、そんなのはただ痛い傷と痣、そして周りの人間が変わっていくという状況をもたらすだけであの時感じた興奮と多幸感を手にすることが出来なくて、またひとり苛立った。それが僕の性欲だと気がついたのは父親の後を継ぐと決めて、少ししてからのことだった。まぁ、なんとなくそう思っただけだけど。

裏稼業には興味はなかったけれど、初めて生きていることを感じたのがこっちの世界だったから悩むこともなく後目を継いだ。それでも苦しむのは自分より遥か下で這いつくばるようにして仕事する雑魚ばかりで、自分にはなんの危険もない。大したことない仕事だった。

仕方が無いから暇な時間に人に痛みを与えて生きている、言葉にすれば自分と同じような生活を送る人間のところにい 行ってみたけれどあんなのは糞も同然。第一、あいつらには相手を殺そうという気がない。真剣さも真面目さもなく、ただ自分が虐めている人間が苦悩するところが見たいという欲望ばかり。寧ろ、死んでしまったら苦しむ姿も見られないから、「死んで欲しくない」と思っていると言う。阿呆かと思った。ふざけてるんじゃないかと笑った。もう二度とあんなところには行かない、そう決めてる。

それからどうしようかと自分なりに色々考えて、僕が僕の欲望を叶えられる方法を遂に思いついた。




「そういうことなの」

今、君の頭の中にあるのは、痛み、苦しみ?それとも憎しみ?矛盾しているようだけど僕は僕の嫌った人間のように君には死んで欲しくないと思ってる。だって僕は君がここで助かって僕に同じような苦痛を与えようと復讐しにくるのを待ってるんだから。嗚呼、もう今からワクワクしてる。ねえ、聴こえる?心臓があり得ないくらい鳴ってる。寝ちゃだめだよ、今寝たらきっとこの世には帰ってこられなくなるから。だめだって。ねぇ、


僕は君を待ってる。だから早く会いにきて。そして、僕に君の気持ちをぶつけて。そしたら僕、もう何も要らないってくらい幸せだと思うから。死んでもいいって思える筈だから。ねぇ、お願い---










翌朝、河川敷に停められた車のトランクから左手首と右足首が切断寸前まで抉られ、全身重度の火傷を負った男性の死体が発見された。汚れた男の服の胸の辺りから男のものではない涙のように塩分を多く含んだ体液が検出された以外に、犯人の証拠らしいもの見つからなかった。


END

2013/05/26

吐いた煙を吸い込む瞬間

前と同じだと思った。
始まったかもしれないという予感と同時に
終わる瞬間を想像して傷ついた。
出会って、秘密を話して、曝け出したことを後悔して、
だからほとんどが始まりもなければ終わりもない。
全部怖くて手を伸ばすことさえない。
ただ今は前のあの子の声が聞きたくて、
私以外の誰かを選んで笑うあの子に会いたくて、
上手くやった自分を思い出して安心する為に携帯電話を握りしめる。


それが一番大きな違いで、
それが一番の障害で、
それが一番の愛情だとしてもそれが何の為になる?


2013/05/21

HELLO,SUICIDE




ベッドを置くのは壁際だと誰が決めたのだろう。窓の近くなら月の明かりで顔がよく見えるし、部屋の真ん中ならば何処からも貴方を眺められる。なのに、誰がそう決めたのだろう。それでも貴方がいつも体を横にして、右側を向くことを僕は知っている。それは常に部屋の中心を向いて、だから僕は貴方の顔を見詰めていることが出来る。

まるで死んでいるかのような貴方の顔を。

僕は、目覚めている貴方のことが好きじゃない。寧ろ、嫌い。だって貴方がその目で見るモノ、その指で触れるモノ、その舌で音を生み出して話しかけるモノ総てが憎くて、誰かが貴方を見るのも、誰かが貴方に触れるのも、誰かが貴方に話しかけるのも、総てが僕を苦しめるから。いっそ、その目を潰して、その指を切り取って、その舌を抜いて、その耳を削いでしまって、全部僕が与える感覚だけで生きていく、そうしてしまいたいと思ったりしたけれど、それは僕が好きな貴方じゃないからする気にもなれない。ただその代わりに、僕は僕だけの貴方を見つけた。

眠っている間は僕のもの。

規則正しく繰り返される呼吸と、堅く閉じた瞼。時折、何かを呟くのだけれど、何を言っているのか聴きとれない。もし、僕ではない誰かを呼んでいるのなら、本当にその真っ赤な舌を抜いてしまうかもしれない。ああでも、そうしてしまったら僕は一生貴方に名前を呼んでもらえない。そんなこと耐えられない。そうして居る間にも僕は大して高くない貴方の鼻筋を指でなぞる。薄く開いた唇に触れる。なんだか、かさついている。いつも、気をつけてと言ってるのに、僕がリップスティックを買ってあげても失くしてしまったと嘯く貴方を僕は知ってる。でもそれでいい。また僕が買ってあげる。そしたらまた失くして、貴方は僕に「ごめん」と言うはずで、僕は怒ったような顔をして、普通の十代のそれが送るような生活の一部を楽しんだ気になれる。もはや、誰かがいつも僕らを監視していて、管理していて、「普通」じゃないってことは慣れてしまったけど、慣れたことと認めることは違うから。態と学校に遅刻してみたり、コンビニで時間を潰して教師に怒られたりすることだって、自分でそうしなきゃ普通の生活を送れない僕らには楽しかったりする。

僕らは普通じゃないから。

さっき触れたかさついた唇に自分のそれを重ねてみる。これが何度目だろう。眠ってる間の貴方だからいけないことだなんて思ってないけれど、目覚めてしまえば僕だけのものじゃなくなってしまうのがちょっとこわい。それでも、掛けられた布の下に手を伸ばし、薄いTシャツ一枚の中に手を入れ触れる。触れた先の鍛えられた体が良いなんて思ったことはない。ただあるなぁ、というだけのこと。自分の手だけに集中させていた意識を貴方の顔に戻して、まだそこに僕のものを確認して先に進む。存在を確かめるように、触れていた。そのうちに居心地が悪かったのか、寝返りを打って仰向けになったのをいいことに、馬乗りになってみる。その頃には、布ははぎ取れれていて、僕はTシャツ一枚が邪魔で仕方なくなっていた。そっと首筋に頭を近づける。汗と香水の混ざった匂い。僕の大好きな匂い。噛みつく前に、べろりと舐めると反応した表情が眉を寄せていた。しょっぱくて、苦い。どうして、なんで甘くないのだろう。僕はこんなにも貴方のことが好きなのに、どうして苦いのだろう。そんなことが気になって貴方のことが見えなくなってしまいそうだったから、自分で自分の舌を噛んで苦いのは全部自分の所為だと思うことにして、そのまま軽く吸って痕を残した。これを誰が気にして、貴方はどんな言い訳をするのだろう。僕には目覚めた貴方のことは分からない。自由に僕の腕をすり抜けて何も分からなくなってしまう。いや、最初から全部分からない。いつまで僕はこんなこと続けられるのだろう。

いつまで貴方は何も気づかないふりをして眠り続けてくれるのだろう。




2013/05/08

Retrograde






あらゆるシガラミから逃れる方法がそれしかないように思えて、何度も痛めつけるような、そして実際に爪を食いこませて、肉を割いて、神経を尖らせた。何度もそうしていたから精根尽きて、気絶するように眠りこんで。おおよそ、次の日が朝早いとか、一日中働き続けるだとか、大きな移動があるだとか、そんなこと何も気にしないのはこれこそ俺たちに残された僅かな若さというものだと思う。それでもやっぱり、そうして夜を無駄にした後には代償がある。理解していたはずなのに、目覚めてしまった時の絶望には耐えがたいと、彼は言う。


ベッドを抜け出し、まだ日が昇らない夜明けの空を見つめていた彼はまたいつものように泣いていた。



「夜明けの暗さが、責めるんだ」



体をどれだけ傷つけたところで現実は何も変わらない。孤独だと感じていたから、ただ繋がったのだと言い訳できてしまう。それが怖くて、でも言い訳でもしなければ皆が何処かに行ってしまう気がして、そんな総てのことが嫌だ、と。境界が確かじゃない、今は唯一だから勘違いしているだけなのかもしれない、彼はそんなことを考えているのだろう。



「俺たちはずっと、どこまでも孤独なんだよ」



やっと出てきた言葉と共に、やっと伸ばして触れた手を強く握る。苦しさに耐えることがどれだけ強いことか彼は知らない。その強さを、彼は知らない。だから、もっと俺に教えてほしい。何故そこまで自分を責めるのか。何も見えないふりをしてしまえば何事もないように世界は変わっていくし、要はなるようにしかならない。



そうして俺は待っている、のかもしれない。何かが大きく変わって、ただ2人になった時にそれでもお互いを選ぶ瞬間を。それとも、それが違うとすれば、彼にとって一番ふさわしいのは何処で、誰なのか。今は何一つ分からなくても、待っていれば何かが現れる。それまで俺たちはどこまでも孤独で、苦しく、耐えがたいこの世界を、何事もないように笑って生きていく。それは、それこそが偶像そのものであるかのように。


END

2013/03/03

SHINJUKU






暇だと大体新宿へ、歌舞伎町の辺りは昼間だと空々しいのでそこが好きです。
ここら辺も少しずつ変わっていくらしく、ミラノ座の前の空き地は封鎖されていました。
あそこの景色を見に行ったのに。
椅子がいっぱい捨てられていて、色鮮やかな絵が描かれる街。
今日もロボットはレストランで給仕をしています。