2013/07/12

Violent Dreams




顔を上げると台形に切り取られた視界の中では遠くの方に小さく車をとらえていた。


その間も硬い手に腰を掴まれ、体が下の肢の間を中心に揺さぶられる。そうしようと思わなくても、寧ろそうしたくなくても口から喘ぎ出る音が何故だか自分自身の耳には届かず、聞こえるはずもない迫りくる車のエンジン音だけが頭の中に響いている。あの車の中には人が居る。二人の男。おそらく、人を追いかけ捕まえて悦に入るそんな仕事を公にしている人間だ。


あ、目が合った。


一度、後ろの人間に大きく体を打ちつけられて、背中が、そしてその中の背骨が仰け反ると自分が今乗っている狭い車内の天井が見えた。そこにあるのは粗末な照明灯。使われていなければ、ただのプラスチックの飾りであるようだ。その玩具みたいなものを確認した瞬間、大きく爆発する音が聞こえた。その一方、後ろで大きく息を吐き、唸る男は一度解放されたのに、まだ腰を離さず、次の準備をするかのように息を整えている。


再び、台形の世界を見ると車が燃えていた。


赤い炎と、黒い煙を吐きだしながら車が崩れ落ちている。中に居た人間はどうなったのだろう。慌てて逃げたのだろうか。そんな時間もないまま一緒に燃えてしまっているのだろうか。わからない。ただ、また揺れ始めた視界が涙の所為で更に不明瞭になっていくことを感じる。苦しい。押し潰される内臓も、目に映る光景も、総てが自分自身を責めてくる。もしかしたら、あの2人はここから救い出してくれるはずだった人間かもしれない。なのに、そんな事とは知らずに、ここで嬌声をあげていた自分が馬鹿みたいだ。


嗚呼、早く終わってほしい。


後ろから声もかけず只管動き続ける人のことを知っているようで思い出せずにいる。こんな風にこんなところでこんなことをされているの相手なのに、振り返っても顔の部分だけ影が落ち、黒く塗られて何も見えない。腰を掴んでいた手がいつの間にかその下の肉を撫で、前に伸びた。それからはくだらない一連の動きが続き、結局最後には自身も爆ぜた。


残響が耳に残っている。


車の爆発音と重なって、頭の中でハウリングが起きる。芯がぐらつき、力を失った腕が折れた。車のシートの皮に頬を擦り付けて少しだけ上がった体温を冷ます。右の頬だけ無機物になってしまう。そんな風に錯覚した。


目を瞑ると違う光景が見えてくる。


真夜中、裸で枕元の壁を撫で回している。冷んやりとして気分が良い。けれど、次第に自分の熱で温くなっていく、その筈なのにいつまでもその温度は変わらず、まるで望んだ通りだ。


不意に夢だとわかった。


ただ、自分が見たどちらの光景が夢なのか、判断がつかないというよりは、決めてしまうことが恐ろしい。現実はあまりにも夢のようで、夢は悉く現実的だ。直観する真実を前に、また目を瞑った。



次に見るのはどちら世界なのだろう。



BGM: Crystal Castles - Violent Dreams

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