2013/12/16

DREAM


わたしは、程々ずるかった。

だから、最後の瞬間は抵抗したり、無駄な弁解もせずその場に立っていた。そうして、目の前で殺気立つ人間ではなく、その向こう、本当は居るはずもない人を見ていた。その人はわたしにとって唯一の人だと今は思っているけれど、もしこんなことが起きずに、ただ平穏に暮らしていたら、一年ともたずに別れているかもしれない。それでも、今、わたしにはあの人しかいない。そう思える。

走って行った人間のことを考える。とてもなだらかな付き合いだった。お互いを知って「すきだ」と言い、いつも笑って過ごしていた。あまりにも普通過ぎて、気に留めない程だった。だから、あの人が現れて、自然とそちらに気が向いて、そうなってから、何も伝えなかったのも、況して謝らなかったのも、わたしの中ではとても取り留めのないことだった。ただ、不幸せそうだなどと無責任にも考えていた。でも、それだけだった。そうしてこうなった。

嗚呼、なんでわたしは好きになったのだろう。あの人の記憶が思い出せない。なにも、かもが、ない。