2014/06/29

友人の街




新井薬師は友人の街だった。

彼女は何でも人並み以上にこなせて、人から愛され、頭が良かった。そんな彼女を羨ましいと思ったことは数えきれないけれど、そんなことを言ったところで何も変わらない。私は私にしかなれず、彼女は彼女でしかない。そんな彼女は、しばしば「手に入り過ぎたものの重圧」に怯えて泣くことがあった。そして、必ず私に共感を求めてきた。その人が何を求めているのか、私には手に取るように分かる。そしてそれが、普通とは違う答えであるということも。そうやって、彼女を泣かせてきた。

彼女の街を雨の中歩いていた。

それは特段、彼女のことを思い出す為ではなく、ただ本屋を巡りたかったから。それなのに、どうしても彼女のことを思い出してしまって、笑えた。彼女のことを好きだったのか、嫌いだったのか、憎かったのか、恨めしかったのか。実際どれも正しく、どれも間違っている。一度、恋人の話をしていた彼女に言ったことがある。「私はあなたを奪った人の話を聞きたくない」と。その後も、彼女は恋人の話をし続けたが、私もその話を聞きながしていた。

到底自分のことなど分からないのに、悲しいというだけには気がついてしまう。彼女は今、北関東にある街で暮らしている。

2014.06.28