2012/02/28

私の世界が意味のないことと夢のないことで溢れていた頃



傷つけれられることもなく
非難されることもなく
ぬくぬくと生きていた。
こうして周りを意味で埋め尽くされた世界で
私はどうしたらいいか分からないし
私にとって最良のものが一つずつ落ちていく
感触が今もこの体から抜けない。
人付き合いってなんだろう。
総てが終わってまぁいいやと思えるほど
私は人を愛せていない。


かくいう時に思うこと



目出度くハタチを迎えることが出来ました。
楽しく祝っていただいた友人たちには感謝です。
またTwitterなどさまざまなメディアを通してお言葉をいただけたことは、こうしてブログやSNSをやっていなければ無かったことなので感慨深い。
ハタチ初めの話題は自らの私生活で正直こっぱずかしいことばかり話していましたが、特に隠したいことではないのでいいです。
そんなこんなでこの年の目標的なものを決めてみました。

①面倒くさがらない
始める前から面倒を理由に諦めたり、会える人に会わなかったりするのは勿体ない。
少しでも私に興味を持ってくれるのであれば、それに応えたい。
私簡単に人を受け入れたり、好きになったりは出来ないので必然的に世界は狭くなります。
それが仕方ないなら、好いてくれる人を好きになりたい。
それでいいのかなと思えるようになりました。

②「頑張る」と言わない
頑張ると言ってみたところで殆ど何も変わらない。
大事なのはその後の行動と、結果です。
とかいいつつハタチになって2時間ほどで結構使ったことを謝罪し、反省した後検討します。

③誰かに頼る
負けず嫌いも、大人びているのも、自立しているのも美徳と言えばそうなのかもしれないけど、結局はただの頑固。
「頼りたい」と口で言いながらもなにも変えられなかったのは今までのこと。
総てを投げ出したいくらい落ちている時は誰かに頼ります。
「お願い」と言える人になります。


完璧な人間など目指さない。
でも一緒に居て居心地のいい人間になりたい。
まとめればそれが今年の目標です。

2012/02/26

ぬるさ

僕らの関係は少しだけ湿った服みたいだった。
それに袖を通すと初めは嫌な感じなんだけど、そのうち自分の体温で温まって何も感じなくなる。
濡れているのは変わらないのに、感覚が奪われたみたいに何も感じることが出来なくなる。
それが僕らの関係だった。

「退屈だったんだ」

そんなこと知ってる。
今更言葉にして、音にするなんて一番滑稽だ。
やっと彼方を違和感なく受け入れられる様になったのに。
それを水の泡にしてしまう言葉。
僕を残していかないという僅かな希望は彼方の消失によって打ち砕かれた。
それなら僕にわからない様に、気づかない様に静寂以上に無音な終わりが良かった。

「ぼくだってそうだったのに」

退屈だったのに。
彼方だけが伝えることを許されるなんて。
ぬるくなったコーヒーはもう喉を通らない。
だからぬるくなった関係だってもう成立しない。

2012/02/25

宇宙の中の汚いこの惑星




苦しい

苦しい

苦しい





地球というこの汚い惑星に圧し込まれている上に、その地球の中の一つの国の一つの街の一つの建物の一つの部屋に閉じ込められ、他人の肺から排出された酸素と二酸化炭素とよくよく考えたらほぼ窒素である空気を又自分の身体の中に取り込み、それで息をしている、呼吸をしているという僕等は、死んでいるのか生きているのか解らないような眼で、広く白い板が黒で汚されていく様子を只々ぼうっと眺めて、たまに目の前で一生懸命に動く人間のその懸命さに笑い、嗚呼なんて人生はこんなにも滑稽なのだろう、こんなことをすることが命の意味なのか、そう考えれば生まれる命の軽さ、虚無さ、それならば誰かに捧げてしまってもいいでしょ、全体重をかけてその相手に委ねて、息をするかどうかでさえ任せて、それでも僕は「生きている」といえるかどうかはわからないけれど、いざ死を手にする場面に至れば、恐怖に震え、意味もなく涙が流れ、命に縋る、貴方に縋る、縋って縋ってその重さのせいで貴方が私を捨てたら、綺麗にこの身体と脳と心臓を諦めて、苦しいこの部屋、この建物、この街、この国、この地球から出ていける。




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2012/02/23

避難訓練




私は百貨店で避難訓練の為に走っていた。
出口へ、多くの人が走っていた。
私がそこに居た理由、誰と居たかは分からない。
もしかしたら避難訓練をする為に居るのかもしれない。
だから私は出口に向かって大きなうねりの中で走っていた。
ふと横を見ると見知った顔がある。
たしか中学の同級生だと思う。
彼も私のことに気がついたようで数秒見詰め合った後口を開いた。

「何しているの?」

避難訓練とは答えなかった。
ただ買物とだけ伝える。

「そうなんだ。僕はさっき彼女と会ってて送ってきたら此処に。」

私もそうなんだと言った。
その間も避難訓練は続いていて二人は並走し続ける。

「これからどこに行くの?」

出口とは答えなかった。
特に決めていない旨を伝える。

「じゃあ、どこか行こうよ。」

その言葉で二人は駆けていた脚を止めた。
流れる人の波を無視して逆らって、逆方向に歩きだす。
何処に行くかは分からないので兎に角一度通った道を歩く。
卒業してから同窓の人間に一度も会ったことがない私に対して彼はまだ連絡を取り合う友達とたまに会ったりするということ、お互いの容姿が変わっていて別人のようだと言うことなど取り留めのないことを話した。
話は弾み、また以前のような友達に戻れると思った。
けれど、以前はどんな付き合いをしたか思い出せない。
彼の断片的な記憶。
明るくて、ひょうきんで、誰からも好かれる、数学の得意な男の子。
風の噂で彼の高校卒業の少し前に市議会議員であった父親が頸動脈を切って自殺したと聞いた男の子。
彼は元気だった。
こうして目の前で笑っている。

「僕君のこと好きだったよ。」

唐突に彼はそう言った。
人の波は出口に吸い込まれ、周りにはもう誰もいない。

「今も好きだよ。」

何を想ってそう言っているのか。
避難訓練に失敗したから後悔してそんなことを?

「ねぇ。」

私はやっと口を開く。

「その好きって、性的に好きってこと?」

彼は私の顔を見て微笑む。

「――――。」







ふと意識を覚ますと耳元で携帯バイブが唸り、画面には友人の名前が表示されている。
今日は18時待ち合わせという内容で電話を切って天井を見詰めると、再び目を瞑った。
夢だった。

Girl's Diary



姉さんはいつも急に突飛な質問をします。

「空はなんで青いの?」
「地震はなんで起きるの?」

私が答えられなければ宿題になりますがそれは決して苦ではなく、家族であれば何としても姉さんの役に立ちたいと思うのは当然なのです。
そして昨日も寝る前の勉強を終え、就寝準備をしていると姉さんからメールが届きました。

「部屋に来て、質問があるの。」

勿論すぐに向かいの姉さんの部屋へ行きました。
ベッドに頭まで潜った姉さんの枕元にたどり着くと尋ねます。

「質問はなんですか?」

その声に頭だけ出したその人が聞きます。

「ねぇ、私って可愛い?綺麗?」

姉さんはあまりに多くの男性に可愛いね綺麗だよと言われ、もしやこれは壮大な罠なのではないかと疑っているようでした。

「美しいに決まっています。世界で一番です。女の私が言うのだから信じて下さいな。」

そう言うとくぐもっていた表情が晴れ、笑顔が戻りました。
いつもの姉さんです。
私はそのことがとても嬉しかったし、幸せでした。
こんなに愛おしいと思うのも、彼女が家族だからでしょう。
そうして眠そうな姉さんを寝かしつけ部屋を出ました。
部屋を出るとき、彼女の首筋に赤い痕があり二番目の兄さんの香水の匂いがしたのは気のせいではない筈です。
きっと兄さんも家族だから姉さんのことが心配だったのでしょう。
私はそんな人達と家族で本当によかったと思いながら眠りにつきました。




2012/02/22

一般女子とオールして分かったこと


①私の「詳しくない、興味ない」と他の人の「知っている、詳しい」にあたる時がある。

基本的になんでも興味があるので、読んだり書いたり聴いたりしていてなんとなくの知識があるから、それが詳しいととられることがある。
でも逆に私が詳しいと豪語することは果てしなく深く、広いんだと思った。

②興味領域が広いから他人に合わせることが簡単にできるけど、他人が合わせてくれることを期待しないから拒絶されるのが恐くて自分の本当の興味を共有しようと思わない。

その人だけじゃなくて、一般に自分の興味以外のことを本気で興味がない態度で聞く人が世の中には多すぎる。全員にそうしろとは言わないから大事にしたい友達の趣味や興味に対してだけは寛大に理解してあげてもいいんじゃないか、と勝手に思っていたりする。


自分勝手だなとは思いますけど、ここではエゴイストで居させてください。

2012/02/19

きみが、ぼくだ


世界は常に輝いていて、曇りや闇など見当たらない。
そこに彼らはいた。
彼は海の中を縦横に飛び、彼女はそれを笑顔で見つめる。
普遍的な幸せの姿。
誰もが疑うことなく、永遠を望むような幸せ。
海と空の地平が溶け、正体が曖昧になる様子が心地よい。
手を取り合い、その身体に触れ、確かめなければ、自分が形あるものかさえ分からない。
降り注ぐ日の光に融かされる。
二人が繋がる。
一つのモノになる。
やはり正体が曖昧になる。
君が僕で、僕が君で。
空が君で、海が僕だから、空が海で、君が僕なんだ。
途端に視界が白くなる。
白に犯され、総てが消えていく。
そこには何もない。
"何も"さえない。
白に犯された世界。
そこには世界があった。
白の他に世界があった。
世界は何か?
世界は白で、君と僕。
全く社会など関係ない。
世界の白と、君と僕。
優しい彼が微笑んだから、彼女も思わず目を細めた。
総てが白だったから、何もわからなかったけど、確かに彼女は笑っていた。







朝。
気づけば二人はベットの上にいた。
お互いが裸で、シーツが乱れていたことにも気づいていた。
でも必死に分からないふりをする。
無知で純粋であるかの様に嘯いて、総てを無いことにしてしまえば誰も悲しむことはないと信じていたから。
自分の心が軋んだ音も聞こえないふりをした。
「おはよう、兄さん」
顔ばかり格好良くて、中身は子供の様に真っさらなお前だから俺は。
「おはよ、」
幸せの夢を心にしまいこむことにした。




2012/02/10

zakki




Twitterを含めSNSのアカウントやブログの類をいくつも持っている私は「絞りたいな」と思うものの「まあいいや」で大体済ませてしまうところが良くないことなのではないかと思います。一応どれも必要なつもり。さて、最近考えていることをつらつらと書いてみます。


①何故同性愛者には女々しい男がいるのか/雄雄しい女がいるのか?
勿論完全に自らの性で同性を愛する人達もいる。小説や漫画で描かれているのは大体そう言う人であるのも分かる。でも、矢張り女性になりたい訳ではないのに女々しい人や男性になりたい訳ではないのに雄雄しい人がいるのか。そもそもそういう人の動画を見たということから始まるのですが、もうその人が気持ち悪くて気持ち悪くてどうしようもなかった。同性愛者嫌悪ではないと思っている。批判されてもそこには根拠もなにもないのでどうすることも出来ないが、多分違う。私がその動画や女子高の友達を見て思ったのは「同性愛と言いつつ、異性を演じているように見えることがとてつもない違和感」ということ。そんな簡単に男性女性どちらか!と割り切れないのが人間なのかもしれないけど、それで好きになってくれるのは同性を好きな人じゃなくてノンケなのでは?と思わずにはいられない。個人的に女体化でテンションが下がるのはそこのとこが曖昧になるから。


②上司と部下の社内恋愛って気持ち悪い。
正直これは単なる主観だし、周りにそう言う人がいなければそんなことも思わなかったけど二組もいると相当だわ。「今日彼の家に泊まってそのまま来たんだ~」とかあまぞわすぎて吐く。見ててどうしても苦しいのは何故か。まぁ、甘い関係の終わりと同時に窮屈な関係が待ってることが目に見えるからかな。それにしてもあまぞわい。





どっかにこんな王子様いないかな。





純粋な二次創作


※映画『46億年の恋』の二次創作小説です。









“被害者の背景は?”





トタンの壁を這う朝顔の蔦。
しかしそこには花はついてない。
そこにあるのは落下する萎びた花弁のような家、商店、そして人間だった。
そんなおおよそ今の世の中で考えられる最低の場所で香月は育った。
そんな場所で育っても、まともに育った人間もいるのだからお前もまっとうに生きろとは言い難いまでに総てがみすぼらしく貧しい。
その土地にまるで隠れるようにひっそり暮らす人間達は生気なんてものは持っていない。
持つことは許されまじことなのだ。




“あぁ、覚えてるよ。
あの子は可笑しいよ。
というより親が何も言わねえんだ。
何度捕まえて親に言っても駄目、警察に突き出しても無駄。
そんな子供だったよ。
毎回ジャムパンを店先から盗んでくんだ。
そう、ジャムパンばっかり。
他のもんには目もくれなかったんだよなぁ。”



“あいつはまじで最低な男だった。
急に○○○―――。
で×××が△△△の○○になって。
中二の時です。”




“殺してやりたかったですよ、そりゃ。
この辺であいつのことを知ってる奴はみんなそう思ってる筈です。
―――え、殺されたんですか?”






誰にも気を許さない子供だった。
周りの人からも、親でさえそう思っていた。
だけどそれは違う。
心を許せるような人間が一人も、たったの一人もいなかったのだ。
食事を与えられないことをつらいと思ったことがなかったのは、それが彼にとって当たり前過ぎたから。
握りしめたいつも同じ味のジャムパンだけが頼りだった。
旨いとか、不味いとかの問題ではない。
それを食べることが彼の必然なのだ。
さびれた街の砂利道。
誰もいない公園。
ただ下へと飲み込む河川敷だけが彼のもので、同時に彼の檻だったのかもしれない。
今となっては何故この両親や、この性犯罪者自身が此処まで彼を追い込んだのかは誰も知らないし、知ることさえできなくなった。
けれど暴かれないことが唯一香月の人生の救いなのだろう。



良い思い出などなくても彼は生まれ育った街を離れることはなく、幼少期の面影を残さないまでに変容した街に留まった。
今では都会のベッドタウンと呼ばれるそこには沢山の人間がいて、幸せな家庭を築いている。
その様子が彼にはどう映っていたのだろう。
微笑み合う親子をどんな目で見詰めたのだろう。
誰かが誰かの為に仕事をし、社会を動かす。
そんなシステムが完璧に整えられてしまった彼の世界は彼にとって心地良いものであった筈がない。
なによりそれが総ての始まりだった。






唯一とってある窓から有吉が外を見ていると香月が声をかける。

「見に行くか?」






ぐるぐると上まで続く螺旋階段。
そこには上に対する期待と、下への絶望が入り混じる。
彼らはもうその渦に飲み込まれ始めていたのかもしれない。
渦に巻きこまれながら上へ上へと足を進める。
先を行く香月にただついていく有吉には漠然と今と違う世界へ行くような、そんな高揚感があった。
大きく見えるが細いその背中を只管見詰める。



「どっちに行きたい?天国か、宇宙か」
「天国、なんてもんがあるなら宇宙」



開けたそこにあったのは、以前見たあのピラミッドだった。
けれど二人は格段驚くこともなく、こうやって話をし始めた。
何処までも広がる地平に自由を感じるのは傍観者の私達だけである。
そこにいる二人には目の前の人間と、その人間が生み出す言葉しか意味がない。




「なんで?」
「そっちの方が人少なそうだから」
「宇宙人いるかも」
「いねぇよ」
「じゃあ天国は信じてるの?」
「お前がどっちって言うから答えたんじゃねぇか」
「あると思う?死んだ後」
「しらねぇ」
「どう思う?」
「俺がどう思おうが、ありゃあるし、なきゃねぇ」
「なんで…なんで人が少ないのがいいの?」
「鬱陶しい」
「なら、なんでヤルの?」



そう微かな声で訊ねた有吉の声は上ずっていた。



「しねぇとイライラするから」
「僕じゃ駄目なのかな?そんだけのことなら。僕は君みたいになりたい」
「やめとけ」
「なんで?」
「こんなんなったら取り返しつかねぇぞ」
「なんで?」



「狂う」



それまで俯いていた顔をあげ香月を見上げれば、今までになく弱々しい表情の彼がいた。
どうして?
僕の言葉なんかにそんなに突き動かされているのか。
どうして?
僕のことを気にかけてくれるのか。
なら、なんで僕ではいけないのか。



「なんで時々僕を守ってくれるの?」



鮮やかに舞う様に人を殴る彼は、何かを必死に守るように、とは言いながら自分自身を守るように戦っていた。
それが彼の暴力の理由なのだと有吉は思っていた。


ただ見詰める彼の視線が柔らかい。
そのことが不思議で仕方がないまでに。




「お前はどっちに行きたい?お前が聞いたんだろ」
「宇宙かな」
「本当はどっちに行きたい?」
「天国かな」
「だからじゃねぇかな」
「何が?」
「狂わせたら悪いとか思っちまう」
「もう狂ってるよ、多分」



根拠もなくそう答えた。答えてみたものの、やはり理由が見つからない。
そのことに香月も気づいている。
だからそんな風に微笑んで笑いかけるんだ。




「俺はあっち(宇宙)に行くよ。お前は向こう(天国)に行けよ」



ほらまたそうやって。



「僕も一緒に行っちゃ駄目かな」
「どっちへ?」
「......」



どちらとも選べない人間にあるのはただ虚しい死のみだ。
どうせ均等に待ち受ける未来ならお前自身で選べよと伝える不器用な言葉が今もこんなにも僕の心に突き刺さってはじくじくと血を滴らせているのです。
ねぇ、貴方はそれを知っていますか?





幾度目の聴取室ではオイルライターの匂いと煙草の煙が充満し、その開閉音が規則的に響いている。



「お前がやったんじゃないってことはもう分かってる」
「僕がやりました。…だけど僕がやったんじゃないとすれば、虹が、三重の」
「何?」








雨。
強くなる程に人の心を曇らせる。
普段大人しいものもその瞬間に牙をむく。



「香月!所長がお呼びだ」
「いや、今日は」
「仕事はいい。早く行け」



僅かに怯えた様子の香月が連れて行かれる背中を目で追うことしか出来ない有吉は何も考えなかった。
考える必要などなかったのだから。
でもただ寂しい背中を見ていないではいられなかった。
そして雨が強くなる。
意味のない労働が始まり、続き、いつかの終わりを待つ。
そうしていると、また黒い影が同僚を攫い有吉は再びひとりになる。
彼には同僚の苦悩は分からないし、知りたくもない。
少し前と同じく、ただ寂しい背中を見詰めることしか出来ない。
思考を宇宙へと飛ばしていく。
広く深い宇宙には何故か穏やかさがあった。
誰からも与えられることのない安らぎがあった。



長かった雨は大地を潤す。
けれどそれは豊かに広がる大地の上での話で、コンクリートの続く此処では気休めにもならない。
ひとりで螺旋階段を上り、ピラミッドを奥から順々に見ていけば、そこには一つとして同じモノがないことを知る。
でもそれだけ。
目で分かることは人間にとってあまりにも少ない。
そこにある歴史や意味さえわからない。
そんな時ふと聞こえた足音は香月だった。



「なんの話だった?」
「亡霊の…」



香月に豪雨に記憶が思い返される。



「昨晩、妻がやって来てね、君のことを心配していた。妻は君にすまなかったと思っているんだ。自分が自殺してしまって、君が心を痛めてはいないだろうか、飛び降りるくらいなら君の元に行ってもうなんでもないと言ってあげればよかったと。それで、私の元に」


そう言いながら愛おしそうに我が妻を思い出す所長は幸せそうで、そしてそこには死んだという女が確かに寄り添っていた。


「代わりに伝えて欲しいそうだ。気に病むな、総て忘れて前向きに出直しなさいと」


恐ろしかった。
所長から伝わる狂気もそこに寄り添う女の意識も。
総てが恐ろしかった。
そして理解した。
俺は生きるべき人間ではないのだと。
気づくのが遅かったかもしれない。
でも気付いて良かったとさえ思った。
望まれない人間などいないと生きることに何の疑問も抱かなかったのはすべて自分の怠惰なのだ。
この感情を知ることを恐れて怠った。
俺は生きていてはいけない。
女を自殺させたことが始まりな筈がない。
これはいたって純粋な終わりなのだ。
最後に見た所長の笑顔は確かに呪いそのものだった。





「なんの話だった?」
「亡霊の…」



そう言って押し黙ってしまった香月を暫く見ていた有吉が何かに気づく。



「虹?ニ重、三重?」



激しい雨の後空に広がったのは約束の徴。
虹は我が身を亡ぼさないことを約束する証。
救われない運命にいようとも、天はいつでも彼を亡ぼさないと約束する。
その大きな愛で包みこもうとする。
でも香月にはその約束が重すぎて、その愛が大きすぎて苦しかった。
もう生に縋るのはやめようとすると与えられる約束など、愛など、自らにふさわしくないからこそ息ができなくなる程の絶望をもたらす。
香月は嗚咽を止められない。
そして再び子供のような浅はかさを露呈する。




「違う、のかな。僕は君みたいになりたいんじゃないのかな」



その幼さを見た有吉は香月に近付き、頬を撫で抱き寄せた。



「やめろ、やめろ...ぅぐっ…ひっく…やめろ!」



温かく抱きしめられた腕を振りほどくのはプライドの所為か、それとも他の何かの所為か。
叩きつけられた体が痛むことより、彼の何にもなれなかったという事実が有吉に刺さった。





これが事件の三日前、香月と有吉二人の最後の記憶である。