2013/05/08

Retrograde






あらゆるシガラミから逃れる方法がそれしかないように思えて、何度も痛めつけるような、そして実際に爪を食いこませて、肉を割いて、神経を尖らせた。何度もそうしていたから精根尽きて、気絶するように眠りこんで。おおよそ、次の日が朝早いとか、一日中働き続けるだとか、大きな移動があるだとか、そんなこと何も気にしないのはこれこそ俺たちに残された僅かな若さというものだと思う。それでもやっぱり、そうして夜を無駄にした後には代償がある。理解していたはずなのに、目覚めてしまった時の絶望には耐えがたいと、彼は言う。


ベッドを抜け出し、まだ日が昇らない夜明けの空を見つめていた彼はまたいつものように泣いていた。



「夜明けの暗さが、責めるんだ」



体をどれだけ傷つけたところで現実は何も変わらない。孤独だと感じていたから、ただ繋がったのだと言い訳できてしまう。それが怖くて、でも言い訳でもしなければ皆が何処かに行ってしまう気がして、そんな総てのことが嫌だ、と。境界が確かじゃない、今は唯一だから勘違いしているだけなのかもしれない、彼はそんなことを考えているのだろう。



「俺たちはずっと、どこまでも孤独なんだよ」



やっと出てきた言葉と共に、やっと伸ばして触れた手を強く握る。苦しさに耐えることがどれだけ強いことか彼は知らない。その強さを、彼は知らない。だから、もっと俺に教えてほしい。何故そこまで自分を責めるのか。何も見えないふりをしてしまえば何事もないように世界は変わっていくし、要はなるようにしかならない。



そうして俺は待っている、のかもしれない。何かが大きく変わって、ただ2人になった時にそれでもお互いを選ぶ瞬間を。それとも、それが違うとすれば、彼にとって一番ふさわしいのは何処で、誰なのか。今は何一つ分からなくても、待っていれば何かが現れる。それまで俺たちはどこまでも孤独で、苦しく、耐えがたいこの世界を、何事もないように笑って生きていく。それは、それこそが偶像そのものであるかのように。


END

0 件のコメント:

コメントを投稿