2013/08/29

twins - suicide - reborn



苦しかった、単純に。
息をしようとも何も取り込めず、結局吐き出し続けていた。僕が鏡のようなお前を見る時、なんで鏡じゃないんだろうと思った。何度も何度も思った。でも、どうしようもなかった。仕方がなかった。僕は苦しいままでお前は笑っていて、僕は泣いていてお前は僕を蔑んだ。同じ時にこの世界に落っこちてきて、不幸だったと一緒に嘆くこともしないでお前は他の誰かと同じように「普通」を生きていた。何故、僕は、何故、お前は生きているのだろう。元々一つだった細胞が神様の勝手で二つに分けられて、今じゃこの有様だ。今日は何かが変わる。生まれた時みたいに総てが終わって、総てが始まると思えば思うほど息がしにくくなって、記憶が白くぼやけてくる。本当は何もなかったんじゃないか、僕はお前の影なんじゃないかって思ったところでそんなことなくて、やっぱり苦しかった。

ずっと前、僕が生まれたあの日。そんな日のことは覚えてすらない。そして今日、何回目かの記念日なのに、それは僕のものではない。僕は生きる影で、僕に送られる「おめでとう」はお前のものになる。そうして返された「ありがとう」も僕の口からは出てこなくて、代わりに僕は飲み込んだものを吐きだした。僕の周りは汚れて、貰ったプレゼントは落ちて破片が散らばっている。僕の記念日。僕の始まった日であり、僕が後悔し始めた日は、お前にとっては最高の日なんだろう。

でも、今日は僕の記念日。今まで苦しんで泣いても生き続けた僕の記念日。僕は僕に「おめでとう」と「ありがとう」を送る日だから、お前はこの中で待っていて。

嫌いなはずない。そんな風に考えたことは一度もなかった。ただちょっと羨ましくて、ただちょっと悲しかった。僕はお前で、お前は僕なのに思ったようにいかなくて。気付いてほしいのに見てもくれなくて。どんなに足掻いても一人だった。

聴いてる?僕の話。
大丈夫、僕はここに居るよ。だから寂しくないし、悲しくもない筈だよ。苦しいなんて嘘。一度僕も入ってみたから。その中に居ると、覚えてない筈のお腹の中を思い出して落ちついた。だってこの世に出てくる前の短く穏やかな日々だからね。その中でゆっくり目を閉じると、麻の織りの少しだけ荒いところから光が入って来て気持ちが良いんだ。大丈夫、こわくないよ。僕がここに居るからね。

叫んでいる声は僕にはとても意味がなくて、騒音と溶け込んでいくように感じる。そうだ、僕の一番嫌いな言葉はね「おめでとう」なんだよ。理由はなんとなく歯痒いからだと思ってる。うん、たぶんね。誰にも言われたことないけど。

大丈夫、こわくないよ。僕がここに居る。
ああ、そうだおめでとう。今日はお前の誕生日だよ。だから僕にも言って、「おめでとう」って。そうしたら僕も「ありがとう」って言える。おめでとうありがとう。僕ももう大丈夫。僕の始まった日と僕自身を記念する日に初めて意味があるものになる。

明日の朝目覚めたら、きっと僕は笑っている。息を大きく吸い込んで総てのことに感謝する。分かるんだ、そんな些細なことが。他の人にとって、そしてお前にとってちっぽけなことが僕に出来るようになる。なんて簡単なんだって手放しで喜んで、お前のことも大切にする。

でも、きっとすぐ思い出す。僕らは不幸な世界に落っこちてきたことを。

大丈夫、こわくないよ。僕がずっとここに居るから。





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