その幸福が僕を鈍らせた。
それが気持ち悪くて、居た堪れなくて、最後は生きていることすら辛くて仕方がなかった。
そう、貴方が優しくするから。
大切な人傍にいなくなった不安を埋めるのは誰でも良かったのでしょう?
安心できる筈も無いのに貴方は馬鹿みたいに簡単に僕を手中に収めた。
僕が何もかも理解しているとは知らずに。
誰かの代わりであり続けているうちは良かった。
触れて伝わる熱もたまに言う戯言も総て冗談で済ませられるうちは正気でいられた。
なのに時間は怖いもので。
貴方はだんだんあの人の影を僕に重ねなくなり、只管僕を抱くようになった。
その頃から僕の感覚は少しずつ鈍り、息をしているのかどうかさえ意識しなければいけない程で。
代償は僕にとって変え難い苦しみだった。
毎夜優しく抱かれるその腕の中で、上にいた貴方に声をかけたのはただの気紛れだったのだと思う。
「貴方はあの人に捨てられたんです。」
普段表情一つ変えることのない貴方の顔が歪み、冷たい平手打ちが飛んできた時は僕の正気が蘇った瞬間とイコールとなった。
あゝ、またこれで気が狂いそうにまともな日常が始まる。
幸福の代償。
それは人を鈍らせる。
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