2012/03/25

指輪


俺に殆ど何も望むことがなかった彼女が唯一欲しがっていた指輪を見つけた。飾りがなくて、シンプルで、裏に言葉が掘ってある指輪。ある店で見たことがあると、いつか一緒に行こうと言っていたけれど今まで行けずにいた。街の外れに有る古くて小さな店。出来れば彼女と来たかったのだけれど、そう思いながらひとつ包んでもらった。サイズは間違ってないだろか、包み紙が少しちゃっちくてこれじゃもしかして怒るかななんて考えてる瞬間もやっぱり愛してるのだと実感する。店を出ると冬の冷たい空気が脇を抜けた。ポケットに入れた指輪を握って確認する。渡す彼女はもう居ない。



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