2011/07/31

Luna llena

もういいの?
つまんないの。
僕一人で満足しないでよ。




毎日、月が出ると僕は夜の誘惑に出会いに行く。
熱帯夜の空はどこまでも黒く、僕の心をずんと重くする。
耳を塞いで感覚を尖らせて今日の僕を必要としてくれる人間を探してみる。
どこにでも不思議な雰囲気を纏う人間がいて、今夜の誘惑はぴりっとした感覚だった。


「ひとり?」
「そうだよ。僕と話したいの?」
「話したくはない。そのなんでも見透かしているような君の皮をはいでみたいだけ。」
「そんなこと言っててなんとかなると思ってるの?」
「なんとかなるんじゃない。なんとかする。」


はじめに見た時からやばいだろうなと思ったけど、そんなものではなかったらしい。
でもそういうのもいい。
僕が知らない僕を必要としてくれる?
ぼくの嫌いな僕を愛してくれる?
そして綺麗に僕を捨ててくれる?



夜のもっと暗い夜の部分。
君が連れて行ってくれる新しい世界。
どこに行くのかとか、何をするのかとかそんな無粋なことは聞かないけど、僕は何故か知っている。
僕には君の欲望が見える。
君には僕の欲望が見えるでしょ?


僕の歩幅なんて気にせず引きずるように連れてこられた部屋は
部屋と言っていいか分からないくらいになにもない。
何もない中にただふたり。
呼吸を奪われ、視界を奪われ、次第に神経もしっかりしなくなる。
少しずつ互いの余裕がなくなっていくのが分かる。
ふと、君を見上げると君は美しく染まり、僕の中を変化させる。
君がすること総て僕には悦びでしかなくて歯痒い。


「まだ。」
君は短くそう呟く。
もしかしたらその先を言っていたかもしれないけれど、
意識が朦朧としてきた僕に判断出来ることなんでないに等しい。
強く、強く、思い出せるように。
しっかりと刻む。



ぱん。
一瞬なにが起こったか分からなかったけど、頬の痛みと共に平手打ちされたと気づく。
「まだ。だめ。」
そう。もっと。
もっと僕を求めて。
僕ひとりじゃ満足しないで。



それから僕は何度も揺り起こされたけど、とうとう君が僕に瞑った目を見せることはなかった。
だから、次は捨てられる瞬間を静かに待つ。
しんと静まったこの箱の中は夏だというのにひんやりとしている。

「次はいつ会いたい?」
「え?」
「今度こそ俺を跪かせてみろよ。」


瞬間、涙が流れて止まらなかった。
見られないように顔を伏せてみても意味がない。
そして少しずつ何かが満たされ、熱くなる。
そう。僕を求めて。
もっと、もっと広げて。
余裕を僕に見せて。
いつか僕に飽きるまで、僕を捨ててくれるまで。

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