2011/11/17

GUNMA



東京に来て一年半と一寸、思い出すことはないと思っていた出生地のことが頭を掠めること数回。
とはいえ思い出せるような思い出も、場所も人間も皆無だからただあの地の重い空気を想起する。
本当に何もない場所だった。



一面広がる真っ暗な水田の画像を切り取った夜20時の電車の車窓。
帰宅時間を過ぎたこの乗り物にはほとんど人がいない。
いても私と同じように何かしらの試験の為にこの時間まで家に帰らなかった人間と、
これからきっと友人の家に出かけるであろう人間のみ。
私は無意識にヘッドホンから流れる音楽を聴きながら自分以外を一人一人なぞってみている。

優先席に座っているカップル。
日系ブラジル人のカップル。
私の理解しえない言語でイチャついていた。
何の前触れもなく女が急に怒り出したと思えば男は興味がなさそうに携帯を操作する。
そんな一コマ。

真っ黒な制服に包まれる少女。
ブラウスのボタンを上まで締めて必死に単語帳を見詰める彼女。
何故だか可哀想だという気になる。
そんな一コマ。

数人でPSPに興じる男児高校生。
どうやらまだ3次元に興味がなさそうな男子生徒。
眼前に座る女子高生がミニスカートにも関わらず脚を開いていても気にならない様子。
いたって不健全。
そんな一コマ。

品のない下着を見せる女子高生。
友達と会話していてもその存在を無視する女子高生。
隣の温かい感覚よりも、携帯内の冷たい誰かの方が大切らしい。
そんな一コマ。

決まった駅から電車に乗ってバラバラな駅で降りていく障害者たち。
近くのセンターで学習や軽労働をする障害者たち。
最早彼らを誰も気にとめない。
煩ければプレイヤーの音量を上げればよいし、盛り上がってもいない会話の音量を上げればよい。
此処では彼らを気にした方が負けなのだ。
そんな一コマ。

そして私。
ジロジロと人々を凝視し、自分だけ他とは別と気取っている私。
何も変わらない。
他と何も変わらない。
この地のこの電車内の鬱々とした雰囲気から脱け出さない。
所詮この地の人間。
面白いことはない。
つらいこともない。
いつも出会うべき人間に出会い、別れるべき人間と別れいずれ自分も無くなると思考する。
そんな一コマ。





何が嫌でそこを出たのかは分からない。
只出ていきたかった。
その一心だった。
そうしてたどり着いた東京でふと思い出す故郷はいつも酷く哀しい。



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