2011/10/19

『46億年の恋』冒頭






一光年離れた所から地球を見ると

一年前の地球が見える

千光年離れた所から地球を見ると

千年前の地球が見える

光は何事かにぶつかれば屈折し

乱反射する

乱反射する

どこかある一点










前を向けば一年前の地球が見え

右を向けば百年前の地球が見え

左を向けば千年前の地球が見え

後ろを向けば万年前の地球が見える

そんなある一点










そこで四方からくる光を

目を閉じて頭蓋骨の裏側で聴く

聴き取ったその微かな響きを

臓物を超えた胸の奥底で嗅ぐ

その嗅ぎ取られた色

その色彩で半透明のベールを紡ぐ

そしてそのベールで

西暦2005年ころの東京を覆い尽くす

最早

暦に刻まれてある数字に意味はなくなる

ベールは湿ったオブラートのように

とろりと溶ける

そして馴染みの風景が

じわりと変容していく

また遠い遠い記憶のように

朧に霞みもする

様々な欠落と印象の肥大が現れる











そっと目を開く

そこにこの作品の舞台がある

そこに悲しげな青年たちが

何かをなくした時代の青年たちが











例えていえば

これはそういうところで展開される

ミステリーだ




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