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2012/11/30

dead leaves


音が聴こえない。誰も居ない訳ではないのに、呼吸の音さえ聴こえない。体温を感じているのに音だけが聴こえない。

「どうしたの」

肺を汚されるように立ちこめる煙は何故今になって気になるのだろう。自分がそう望んだんじゃないか。そうしたいと思ってたんじゃないか。ここでこうしていることも。掌を白く汚すことも。総て。

一度めちゃくちゃになってしまってから、時折思い浮かべる。どうしてこんなことになってしまったのか。厳しく突き落とされるのにも慣れた筈なのに。あの時に気がついた現実は今も変わらない。苦しいのは敵が多いからじゃなく、俺に味方が居なかったから。一人の方が楽だった。

「近くにいるのに見えない時もあるんだ」

一人で居たほうが楽だったのに、いつの間にかこんな場所にいて、味方と言うには非力な人間はいつも隣に居る。急速に冷えた体を近づけて、少しでも感覚を尖らせる。また、何も聴こえなくなる。

「聴こえない」
「何が?」
「何も」

すると、急に相手が馬乗りになって俺に何か伝えようとする。聴こえない、見えないと投げ出してしまった俺に。

「ちゃんと見て、僕はここに居る。誰もお前を見てなくたって、僕がお前を見ている」

泣いていた。それまで溢れだす様子すらなかったのに。歪んだ世界の中にあいつが居て、あいつの声が聴こえていた。


2011/11/06

君なんだ


君なんだ
君だけなんだ

僕には君だけなんだ 君なんだ
他の愛なんて要らない 僕にはただ君なんだ
もう一度聞いてみても 僕にはただ君なんだ
もう君には他に愛する人がいるけど
どうしようもないんだ もう元に戻すことは出来ない
君の視線が入ってきた瞬間に
胸深く釘を打ち込まれた瞬間に
迷わず直ぐ君を選んだ
そう 僕には君なんだ

誰が何と言っても 僕には関係ないし
誰が悪く言っても 君だけを見つめるんだ
僕がもう一度生まれ変わっても ただ君だけだ
カチカチ 時が流れても
君を愛してると言っても 何千回何万回言っても
僕の胸の中が燃え尽きて 乾く唇が擦り切れる程
僕がもう一度生まれ変わっても ただ君だけなんだ
カチカチ 時が流れても
only for you

どんな言葉も要らない 僕にはただ君なんだ
遅すぎてしまったけど 僕にはただ君なんだ
間違った愛だと分かっているけど
諦められない 絶対逃せない
酷く冷たい僕の唇は また呼ぶよ
熱く君を探し求めて呼ぶよ
呼んでも返事のない君だけど
僕は待っているんだと







2010/07/14

世界はときどき美しい

天にましますわれらの父よ

天にとどまりたまえ

われらは地上にのこります

地上はときどきうつくしい

ニューヨークの不思議

それからパリの不思議

三位一体も顔負けで

ウルクのちっちゃな運河

万里の長城

モルレーの小川

カンブレーの薄荷菓子

それから太平洋

チュイルリーの二つの泉

いい人たちとわるいやつら

この世のすべてのすばらしさは

地上にあります

あっさりと地上にあります

あらゆる人にあけっぱなしで

めったやたらに使われて

こんなすばらしさに自分でうっとりして

しかもそれを認めたがらない

裸をはずかしがるきれいな娘みたいに

してまたおそろしいこの世のふしあわせ

それは軍隊

その軍人

その拷問係

この世のボスどもと

その牧師 その裏切者 その古狸

それから春夏秋冬

それから年月

きれいな娘と いやな野郎

大砲の鋼のなかで腐ってゆく貧乏の藁


ジャック・プレヴェール「われらの父よ」